アジアの手仕事~生活と祈り~

アジア手工藝品店を営む店主が諸国で出逢った、愛すべき”ヒト・モノ・コト”を写真を中心に綴らせていただきます

手仕事の真鍮のあたたかみ

2013-03-15 00:38:00 | 技巧・意匠・素材



●真鍮製のベテルカッター
製作地 インド・ラージャスタン州  
製作年代(推定) 19世紀後半~20世紀初め

“ベテルカッター”は、”檳榔の実(ビンロウジ)=ベテルナッツ”をはさみ割るために用いられる道具であり、細かく割ったビンロウジの内核を石灰・香辛料等とともに”キンマの葉”で包み、口の中に入れガムのように噛む清涼剤”蒟醤(キンマ)”(インドでは”パーン”と呼ばれる)は、紀元前の昔から南アジア・東南アジアを中心に嗜好されてきたことが知られます。

インドにおいて”パーン”は、古来よりヒンドゥ信仰との結びつきが深く、“ベテルカッター”は単なる道具ではなく、宗教儀礼用道具の一つとも見做され、世襲の金属工芸職人の手により、神々や吉祥の鳥獣等の意匠が表された、手の込んだ鍛造・彫金の作品が生み出されてきました。

何千回、何万回と真鍮をたたいて成型される”鍛造”の作品は、同じ真鍮でも色・肌の質感がまったく異なり、独特のあたたか味が感じられます。

本ベテルカッターも、経年による古色および、それにも増して、職人手仕事の技と気が、かくもあたたかくかつ深みのある表情を授けたことは間違いないように思います。











●本記事内容に関する参考(推奨)文献


古の染め布”アジュラック”を纏って

2013-03-13 05:51:00 | 旅の一場面



(写真 インド・ラージャスタン州 ジャイサルメールにて)





(写真 インド・グジャラート州 カッチ地方にて)

”アジュラック”は、インダス川下流域(及びその支流)に広がる平原地帯で栽培される木綿を素材に、この地で数百年以上にわたり(原初はインダス文明期とも考察されている)、写真に見られる藍と茜をベースとする幾何学文様の木版染め布として手掛けられてきました。

布の下処理や天日干しから始まり、媒染と防染の高度な職人技が加えられ、一枚のアジュラックを完成させるには数十にわたる工程を要するものとなります。

この古から伝わる手仕事の染め布が、今でもラージャスタンやカッチやスィンド(現パキスタン側)の日常生活の中で、ごく普通に用いられているということに素晴らしさを感じます。





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