アジアの手仕事~生活と祈り~

アジア手工藝品店を営む店主が諸国で出逢った、愛すべき”ヒト・モノ・コト”を写真を中心に綴らせていただきます

素材の段階から祈りが込められた床敷き布

2014-11-20 15:02:00 | 染織



製作地 ラオス北部 ウドムサイ県  
製作年代(推定) 20世紀半ば
民族名 タイ・ルー族(Tai Lue)

床の上に敷いて寝具として用いるために織り上げられた、”パー・ロップ”と呼ばれるタイ・ルー族の伝統織物。手紡ぎ木綿・天然染料を素材に、丹精を込めた一織り一織りにより手掛けられたもので、布上に12段にわたって織り描かれた総異柄の二色浮織・吉祥文様が見事です。

パー・ロップは旅行等の外泊時に携帯されますが、本品のような手の込んだ作品は、出家僧侶がお寺や僧院で用いるため、村の女性の手で奉納用として織られたことが伝わっております。

白地の部分も単純な平織ではなく糸浮きと畝を加えているのは、この上に身体を横たえた際に柔らかみと暖かみが感じられるようにという、実用的な工夫であることが伺えます。また天然の藍には蚊除けの効果があることも知られます。

手紡ぎのふんわりとした木綿糸でなければ、天然の藍染めでなければ体を成さない(目的に適わない)織物であり、素材作りの段階から祈りが込められた作品と言うことができます。













●本記事内容に関する参考(推奨)文献
 

ラオスの裾刺繍スカート”シン・ティーン・サオ”

2014-11-12 06:20:00 | 染織











製作地 ラオス北東部 フアパン県  
製作年代(推定) 20世紀半ば~後半
民族名 タイ・ヌア族(Tai Nuea)  ※フアパン県に生活するタイ・ダム族、タイ・デーン族、タイ・カオ族等の総称

”裾刺繍のスカート(=シン・ティーン・サオ)”とは裾部の装飾が織りではなく刺繍によりなされるシンを指すもので、主にベトナムと国境を接するフアパン県及び国境をまたいだベトナム側に生活するタイ・ラーオ族系民族の間で培われてきた技巧のものとなります。

緯紋織・縫取織で表現されるモチーフとほぼ同一の文様が刺繍で表現されることが意匠上の特徴で、第二次世界大戦~インドシナ戦争の戦乱時、移動・避難生活を継続して強いられる中、大きな織機の利用がかなわなかった人々が、シンの装飾については針仕事で行ったことが製作の発端とも考えられております。

”白い鹿”の可憐な表情と背景の多色文様の美しさに目を惹かれる本スカート、一針一針の刺繍からは平安や子供の健やかな成長等を祈る気持ちが伝わってくるようにも思われます。





●本記事内容に関する参考(推奨)文献