アジアの手仕事~生活と祈り~

アジア手工藝品店を営む店主が諸国で出逢った、愛すべき”ヒト・モノ・コト”を写真を中心に綴らせていただきます

17-18c 手描き”藍地多弁花模様”インド更紗裂

2016-11-27 00:30:00 | 染織




製作地 インド南東部 コロマンデル海岸エリア
製作年代(推定) 17世紀~18世紀前期
渡来地・使用地 インドネシア・スマトラ島 ランプン
素材/技法 木綿、天然染料 / 手描き・両面染め、媒染、防染
サイズ 47cm×47cm

本布は細手の手紡ぎ木綿糸で平滑に織られた上質な木綿地をベースに、藍の浸染及び茜媒染を主体に絵付けがなされたもの、総手描き&両面染めの特殊かつ高度な技巧が加えられており、ランプン王族・上層貴族向けに特別な発注により手掛けられたと推定される作例となります。

大ぶりの多弁花と額縁状の葉模様が連続文として精緻に染め描かれており、花は”蓮華”的な表情を感じますが、切れ込みの入った葉のカタチは”牡丹”的であり、インド若しくはオランダ東インド会社がアジア交易向けに意匠化した”牡丹唐草模様”のいちバリエーションと考察されます。

17-18世紀当時、世界でインドのみが有していた高度な木綿媒染技術が如何なく発揮された作例で、赤の色味の濃さ・鮮やかさ、更には300年前後にわたり色褪せない染色の堅牢さは驚嘆に値するもの、取り分け薄手の木綿地に対して、ここまで染めムラ等の破綻無く手の込んだ多色模様を両面で染め上げている点は、現代の目からも並々ならぬ技術のものと言えます。

”古渡り期インド更紗”たる固有の存在感と格調の高さが感じられる名品裂です。





































●本記事内容に関する参考(推奨)文献
  

江戸後期 縞木綿”和唐桟・微塵嶋”裂(2)

2016-11-25 00:27:00 | 染織




製作地 日本 ※地域不詳
製作年代(推定) 19世紀 江戸時代後期
素材/技法 木綿、天然染料 / 平地、格子織
サイズ 幅(緯):34cm、長さ(経):66cm

本布は濃藍と茶に染められた二色の木綿糸で構成される平地の縞格子で、経緯ともに連続線と点線を交えて篩(ふるい)の網目のような独自の表情を有する文様を描いたもの、これは江戸時代に”せいらす嶋”の呼称でもてはやされたもの(せいらすはセイロン島に由来)で、”じゃがたら嶋””算崩し嶋”等とともに舶来の唐桟・奥嶋が意識されて、その写しとして日本国内でも織られるようになった和唐桟の一種となります。

唐桟・奥嶋は経緯ともに双糸(二本引き揃えの糸)で織られるのが通常ですが、江戸時代に遡るこの種の唐桟写しは、未だ品種改良の進む前の短繊維で粗く毛羽のある糸、細く長く紡ぐことが困難な国産木綿で織られたため、本布のように双糸ではなく単糸で織られたものが見受けられますが、ここまで細く長く繊細に手紡ぎされた糸により平滑な織物、一見すると渡りの唐桟と見紛うほどの細密な織りが実現できているのは並々ならぬ手技によるものと言うことができます。

”微塵嶋”とも称され珍重された江戸期の上手木綿織物、時代の色香が薫る逸品です。

























●本記事内容に関する参考(推奨)文献
 

江戸後期 縞木綿”和唐桟・微塵嶋”裂(1)

2016-11-23 05:32:00 | 染織




製作地 日本 ※地域不詳
製作年代(推定) 19世紀 江戸時代後期
素材/技法 木綿、天然染料 / 平地、格子織
サイズ 幅(緯):33cm、長さ(経):51cm

本布は白及び青藍・紅・黄(生成り)に染められた4色の木綿糸で構成される平地の縞格子で、繊細に手紡ぎされた細手の糸で密に織り上げられたもの、舶来の唐桟・奥嶋が意識された織物であることが文様と色彩から伺えるところとなります。

唐桟・奥嶋は経緯ともに双糸(二本引き揃えの糸)で織られるのが通常ですが、江戸時代に遡るこの種の唐桟写しは、未だ品種改良の進む前の短繊維で粗く毛羽のある糸、細く長く紡ぐことが困難な国産木綿で織られたため、本布のように双糸ではなく単糸で織られたものが見受けられますが、ここまで細く長く繊細に手紡ぎされた糸により平滑な織物、一見すると渡りの唐桟と見紛うほどの細密な織りが実現できているのは並々ならぬ手技によるものと言うことができます。

遠目ではほんのり赤み掛かった灰色(江戸鼠)の色無地とも思えるような視覚効果があり、目を近づけると縦横に格子が入っていること、更に肉眼以上に倍率を上げると白・青藍・紅・生成り(※生成りは画像では判別しずらい)の4色構成で格子縞が表現されている様子が確認できるもの、ここからは細密小紋の型染めとの共通項・美意識の有り様が見い出せます。

”微塵嶋”とも称され珍重された江戸期の上手木綿織物、時代の色香が薫る逸品です。
























●本記事内容に関する参考(推奨)文献