アジアの手仕事~生活と祈り~

アジア手工藝品店を営む店主が諸国で出逢った、愛すべき”ヒト・モノ・コト”を写真を中心に綴らせていただきます

19cシャム王国 真鍮製”亀形”・蒟醤用合子

2018-03-29 08:08:00 | 生活と祈りの道具








製作地 シャム王国(タイ)
製作年代(推定) 19世紀
素材 真鍮
サイズ 全長(最長部):8.5cm、横幅:5.8cm、高さ:5.5cm、重さ33g

チャクリー王朝期のシャム王国で手掛けられた真鍮製”亀形”の蒟醤(キンマ)用合子、19世紀のアンティークの作品です。

噛み嗜好品”蒟醤(キンマ)”は、近世までの東南アジア諸国において宮廷儀礼・宗教儀式等の公的行事や結婚式等の私的行事双方において欠かすことのできない慣習であり、蒟醤使用に際して用いられる諸道具は、陶磁器・金属器・漆器など様々な工芸技術に反映され(漆器蒟醤手の呼称の由来でもある)、シャム王国美術工芸のいち分野と看做されるほど、意匠・様式の高度化がはかられてきたものとなります。

亀が象られた本合子は、蒟醤材料のひとつ石灰を収めるためのもので、この種の金属製小型合子では、仏教・ヒンドゥの神話に登場する神々や吉祥の動物たちが象られ、高度な打ち出し(レリーフ)の技法により手の込んだ作品が生み出されてきました。

レリーフと全体の造形に甘さがなく、宮廷・貴族調度品として用いられた時代の本物の”蒟醤合子”としての風格と格調の高さが感じられる一品、更に本品の格調を高める要素が経年に由来する真鍮古色とパティナ(緑青)で、19世紀に遡る時代の作品であると考察することができます。

西洋文化の浸透と20世紀中期に出された蒟醤禁止令により、宮廷・貴族層における蒟醤の慣習はほぼ失われ、専門職人の手による道具製作の伝統も失われていきました。
古き良きシャム王国伝統工芸、宮廷・貴族使用の美術調度品の時代が偲ばれる一品です。































●本記事内容に関する参考(推奨)文献




20c前 クメール 絹格子&経緯併用絣布

2018-03-21 06:56:00 | 染織








製作地 タイ東北部 イサーン地方南部 スリン Surin
製作年代(推定) 20世紀前期
民族名 クメール系タイ人(Khmer)
素材/技法 絹(カンボウジュ種)、天然染料 / 平地、縞格子、経絣及び緯絣(経緯併用絣)
サイズ 幅(緯)93cm×長さ(経)216cm

タイ東北部のイサーン地方南部”スリン(Surin)”で手掛けられた、絹格子&経緯併用絣布”アウン・プロム(aum prom)”、20世紀中期の準アンティークの作品です。

イサーン地方南部の、現カンボジアと国境を接するブリラム・スリン・シーサケットの各県はクメール王朝時代の遺跡が残り、クメール系の住民が多く生活する土地柄となります。

いずれも絹織物を主体とする伝統染織の産地ですが、取り分けこのスリンは黄金繭として知られるカンボウジュ種絹繭の養蚕が小村で継承され、手引き・手紡ぎ、天然染料の準備と染め、簡素な木杭作りの機での手織り、の昔ながらの表情を保つクメール織物がつくられてきました。

一見すると落ち着いた色表情の質朴な平地・格子の布ですが、実際には色格子の中に無数の白班が経糸・緯糸双方の絣(=経緯併用絣)として散りばめられる手の込んだ織物で、糸作り・染料作りから始まる丹念な手仕事からのみ生み出し得る特殊な染織作品となります。

現在では失われし素材感及び技巧・意匠のもの、カンボウジュ種絹と天然染料により手掛けられた古のクメール伝統染織、経緯併用絹絣の知られざる逸品です。




























●本記事内容に関する参考(推奨)文献