アジアの手仕事~生活と祈り~

アジア手工藝品店を営む店主が諸国で出逢った、愛すべき”ヒト・モノ・コト”を写真を中心に綴らせていただきます

19c 木版”白地花散らし文”インド更紗裂

2016-10-29 00:30:00 | 染織




製作地 インド北西部 ラージャスタン州若しくはグジャラート州
製作年代(推定) 19世紀初期
素材/技法 木綿、天然染料 / 木版捺染、媒染、描き染め(藍)
サイズ 横幅:55cm×縦:95cm

白地を埋め尽くすように配された”多弁花””葉””花びら”の散らし模様が印象的なインド更紗。

繊細に紡がれた細手の木綿糸で織られたやや薄手の木綿地をベースに、木版により”明礬””鉄漿”の媒染剤を押塗し茜浸染により花・花弁及び葉の輪郭の”赤””黒”を発色、その上から”黄染料”を木版捺染で色付けし、葉を彩る水藍がカラム(筆)で描き染めされた片面染めの作品です。

”多弁花”の意匠はどこかヨーロッパ風を思わせる表情のもので、インドネシアや日本等のアジア向け交易更紗及びインド国内向けとは一風異なる雰囲気を感じさせるもの、特定は出来ませんが、色柄の雰囲気からヨーロッパ向けに手掛けられたものの可能性を指摘できます。

茜赤・黒・黄・水藍、二百年前後の時を経て色褪せることなく瑞々しい生命感を呈し続けるインド更紗固有の木綿媒染技術は見事、歴史の浪漫を薫らせる19cインド更紗の稀少作例です。































●本記事内容に関する参考(推奨)文献
  

19c江戸後期 経緯絣入り・縞木綿布

2016-10-25 00:08:00 | 染織




製作地 日本 地域不詳  
製作年代(推定) 19世紀前期 江戸時代後期
素材/技法 木綿、天然染料 / 平地、縞織、経緯絣
サイズ 幅(緯):27cm、長さ(経):31cm

本布は白と薄茶の木綿(薄茶は茶綿の可能性有り)を経緯とする経縞をベースに、藍染めの経絣と茶染めの経緯絣が織り込まれたもの、手紡ぎ・手結い・天然染色の木綿縞絣としての瑞々しい生命感が感じられる一枚で、取り分けリズミカルに配された”井桁文”経緯絣の表情に格別の秀逸な味わいがあります。

国産木綿を素材とするこの質感と表情を有する木綿縞絣は、江戸時代末~明治初期には急速に失われてしまったものであり、19世紀前期までの限られた期間にのみ生み出されたものであることが、残存する作例及び当時作られた裂帖により確認することができます。

古き良き日本の木綿染織の時代が偲ばれる、江戸後期・木綿縞絣の薫り高き逸品裂です。


























●参考画像 同時代(江戸中後期)の木綿縞絣が蒐められた江戸期の裂帖 


※上画像は平凡社刊「別冊太陽 木綿古裂」より転載いたしております




●本記事内容に関する参考(推奨)文献
 

19c琉球王国 首里”浮文&捩織”花織

2016-10-21 00:31:00 | 染織




製作地 琉球王国(現日本国・沖縄県) 首里
製作年代(推定) 19世紀後期 琉球王朝期
素材/技法 木綿、天然染料 / 平地、浮文織、捩織
サイズ 幅(緯):27cm、長さ(経):58cm

”首里花織”は、琉球王府の王族・士族層の織物として発展した首織織のひとつで、素材面・技巧面を併せて、王国の中心地たる多様で格調の高い織物が生み出されました。

本花織は、経に白・茶・空藍・濃藍の4色の木綿糸、緯に白・空藍・濃藍の三色の木綿糸が配され、平織を基本組織としながら、文様を構成する部分は”紋織”に”捩織”を交えた高度かつ複雑な織りにより布両面で破綻の無いの”浮花文”が表現されたもの、技巧的には”両面浮花文”の一種と位置づけられる作例となります。

特筆すべきは経緯に用いられている木綿糸の柔らか味とふくよかさで、織りは緻密でありながら布及び文様には硬い表情が無く、手紡ぎ・手繰りの木綿糸を腰機で織り上げた王朝期織物に固有の優美な表情が感じられます。

”紋織”と”捩織”を駆使して表現された10の点とそれを繋ぐ放射状の線からなる”群星文様”、その緻密な織り表情が秀逸であり、織物がかもす独自の色香と完成美に目と心を奪われます。

細太の交わった(あえて均質化しない)ふくよかな木綿糸によって地織と紋織の一織り一織りがなされており、同一(連続)パターンながら”群星文様”の表情はひとつひとつ微妙に異なるといった作品であり、そこに最大の魅力と見所が感じられます。

素材・技巧・意匠及び精神面のすべてにおいて今では再現することのできない、王朝期・首里”浮文&捩織”花織の薫り高き逸品裂です。

























●本記事内容に関する参考(推奨)文献