アジアの手仕事~生活と祈り~

アジア手工藝品店を営む店主が諸国で出逢った、愛すべき”ヒト・モノ・コト”を写真を中心に綴らせていただきます

カルンパン作・トラジャ使用の儀礼用経絣布

2015-06-20 00:15:00 | 染織




製作地 インドネシア・スラウェシ島 西スラウェシ州カルンパン  
製作年代(推定) 20世紀前期
民族名 製作者:カルンパン(マッキ)人 / 使用者:サダン・トラジャ人
素材/技法 木綿、天然染料 / 経絣、二枚接ぎ


西スラウェシ州に生活する”カルンパン(マッキ)人”は、南スラウェシ州に生活する”トラジャ人””ロンコン人”と多くの点で共通する習俗を有し、さらに”ロンコン人”とは、古来より域内交易のための”絣織物”を手掛けてきたこと等、染織文化の面においても共通項を見出すことができます。

この大判の絣布”セコマンディ(ロンコンでは”ポリ・シトゥトゥ”)”は、カルンパン(ロンコン)内での祝祭及び葬祭儀礼用として用いられるとともに、中央スラウェシやタナ・トラジャに交易布としてもたらされ、タナ・トラジャにおいては聖布マアに類する伝世布として保管・継承されてきたことが、残存する作例により確認することができます。

本布は、一見すると藍の鉤状文が主模様とも思われますが、良く観察すると藍の鉤状文で区画された内部(茶部分)に”水牛テドンの顔”及び身体に白斑(十字文部分)を持つ”水牛テドンの全身(俯瞰図)”が描かれているようにも思える作品です。

特筆すべきは藍の鉤状文は単色ではなく巧みな藍濃淡が加えられていること、上下ボーダーの鋸歯文等小モチーフの括り染めが緻密でメリハリが利いていること、太目の紡ぎ糸ながら織り密度が高いこと(カルンパン絣の特徴)で、20世紀後半以降に手掛けられたもの、取り分け当初から販売目的で生み出された汎用的作品とは明らかに異なる意匠の力強さと完成美、細部に宿る生命感が感じられるところとなります。トラジャ伝世布として大切に保存・継承された一枚です。