アジアの手仕事~生活と祈り~

アジア手工藝品店を営む店主が諸国で出逢った、愛すべき”ヒト・モノ・コト”を写真を中心に綴らせていただきます

ステッチが寸断せずに繋がる生命の刺繍

2012-03-26 05:30:00 | 刺繍









製作地 アフガニスタン・ガズニー州 ハザラジャート  
製作年代(推定) 20世紀半ば
民族名 パシュトゥーン系遊牧民  
刺繍 ラダーステッチ(ボタンホールステッチの変形)

ハザラジャート南部の丘陵地帯で遊牧生活を行うパシュトゥーン系遊牧民が、婚礼に際して手掛けた刺繍布。平安・豊穣への祈りが”生命樹””羊(の角)”等の文様に込められた作品です。

特筆すべきは、ステッチのすべてが寸断することなく繋がっている点、これは”生命力”を寸断させないための技巧・意匠である(あろう)ことを、作品自身が語りかけてくるように思います。

モチーフ(文様)を描くというよりも、”生命”そのものを表わすことに主眼が置かれた、躍動する生命の刺繍作品です。どこを目にしても”生命”は連なり繋がっております。




●本記事内容に関する参考(推奨)文献
 

手紡ぎ木綿・茜染めの一目絞りヴェール

2012-03-16 05:38:00 | 染織










製作地 パキスタン・スィンド州 タールパルカール  
製作年代(推定) 20世紀半ば
民族名 使用者:ジャート族/製作者:カトリ共同体  
素材 木綿、茜、藍、黄染料
 
インダス川下流域の地で、綿花の収穫から始まる手仕事から生み出された一目絞り・茜染めのヴェール。この地で染色を専門に行なってきた職人共同体”カトリ”の手による作例です。

手紡ぎ・手織りの厚地の木綿の場合、布を折り畳んで括り絞ることはないため、一目一目が単独の絞りであり、熟練した職人は下絵など無いフリーハンドで、この吉祥絵図を完成させます。

ジャート族やメグワール族の女性が、お嫁入りの際に支度品としてあつらえ一生モノとして大切に使い続ける、そういった種類の、古い時代のオーダーメード高級ヴェールとなります。




●本記事内容に関する参考(推奨)文献
 

パキスタンの装飾スタイル

2012-03-14 05:30:00 | 旅の一場面






(パキスタン・スィンド州カラチ 及び カイバル・パクトゥンクワ州ペシャワールにて)

古い時代、遊牧・交易の地では馬や駱駝は人々の生命を預ける乗り物であり、神の祝福を得るために華やかな装飾がなされました。現代のパキスタンを走るデコレーションバス、その一見過剰とも思える装飾スタイルは、遊牧・交易の時代の名残りとも考えられます。