アジアの手仕事~生活と祈り~

アジア手工藝品店を営む店主が諸国で出逢った、愛すべき”ヒト・モノ・コト”を写真を中心に綴らせていただきます

12-13cクメール王朝期 褐釉陶器・鳥形石灰壺

2018-02-27 00:15:00 | 古陶磁










製作地 クメール王朝 現カンボジア北部~現タイ東北部(イサーン南部)
製作年代(推定) 12-13世紀
種類 施釉陶器 
サイズ 胴径:約9.5.cm、全長:約9.5cm、高さ:約7cm、口径:約3.6cm、重さ267g

クメール王朝で手掛けられた褐釉陶器・鳥形石灰壺、12~13世紀のアンティークの作品です。

この胴径約10cmの鳥型の容器は、噛み嗜好品”蒟醤(キンマ)”に用いられる石灰を入れるための壺(石灰壺)として作られたもので、壺内部には石灰の付着痕が確認できます。

顔部から”ふくろう”が象られたと考察されるもので、ロクロ成形ののち貼付け・線刻により加飾がなされたもの、同種品の中ではつくりが端整でややオリーブ掛かって目に映る褐釉の色味は雅趣に富み、作品からは見飽きることの無い表情の豊かさ、そして愛らしさが感じられます。

アンコール期(日本の平安時代後期~鎌倉時代)の古陶としての時代の浪漫が薫る一品です。


























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20c中 菩提樹の下の仏陀と王宮文 絵絣ピダン

2018-02-25 08:51:00 | 染織













製作地 カンボジア南部 タケオ若しくはカンプチアクロム
製作年代(推定) 20世紀中期
素材/技法 絹(カンボウジュ種)、天然染料 / 綾地、緯絣
サイズ 幅(緯)83cm×全長(経)306cm

カンボジア南部のタケオ若しくはカンプチアクロムで手掛けられた、仏教儀礼用の絹絣「ピダン(pidan)」、20世紀中期の準アンティークの作品です。

仏教寺院において天蓋布や仏像を奉る祭壇の掛け布(後背布)として用いられた系統の3mサイズの絵絣ピダンで、布端と中央の上下6箇所に布掛けループが付されており、実際に天蓋布・掛け布として使用されたものであることが確認できます。

菩提樹の下に坐して瞑想を行なう仏陀様と王宮(或いは寺院)とその中の王子の中心に、幟幡を掲げ様々な仕草で祈りを捧げる天女或いは宮廷女性、吉祥動物たちが繊細かつ生き生きと躍動感たっぷりに染め描かれており、作品がかもす信仰の世界観に目と心を奪われます。

本ピダンは取り分け人物の表情・仕草・女性たちが着用する衣裳の表現が端整かつ秀逸で、巧みに描き分けられた腰衣の絣文様(絣の中に描かれた絣)や幟幡、建物の屋根・柱・カーテン等のディテイルに見飽きることの無い表情の豊かさが感じられます。

また布両端に配されたボーダー文様”ヤントラ”は色調に変化が加えられており、全体の表情を引き締め仏教儀礼用布たる荘厳な空気感をかもしております。

生命息づく絵絣モチーフひとつひとつが紡ぐ物語性に惹き込まれるクメール絹絣の逸品です。













































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19c タイ・プアン 絹・木綿交織 縞&紋織布

2018-02-23 00:40:00 | 染織








製作地 ラオス北東部 シェンクワン県 Xieng Khouang Province
製作年代(推定) 19世紀後期
民族名 タイ・プアン族(Tai Phuan)  
素材/技法 絹、木綿、天然染料 / 平地、緯縞、縫取織及び緯紋織(浮文・昼夜織)
サイズ 横幅(緯)82cm(二枚接ぎ)×縦(経)145cm

ラオス北東部のシェンクワン県に生活する「タイ・プアン族(Tai Phuan)」の手による、絹・木綿交織の縞&紋織布、19世紀後期のアンティークの作品です。

本布は経糸にラック染めの絹、緯糸は絹を主体に紺色の縞を構成する藍糸に木綿が配された”絹・木綿交織”の縞織物で、下裾と縞の間に多色の絹を用いた”浮文・縫取織&緯紋織”の技法により立体的な幾何学文様が織り込まれたもの、紋織は表裏で文様が反転する”昼夜織”によって両面で破綻無く巧みに織り上げられております。

中央二枚接ぎで幅82cm×長さ145cmの大判に仕立てられており、サイズ及び仕様から寒冷期に肩から掛けて(巻いて)用いる“パー・トゥーム(phaa tuum)”に分類されるものと思われますが、上質な素材をもとに通常とは異なる意匠が凝らされた作品であり、日常使用のものではなく、祝祭行事や宗教行事等の特別な機会のために製作されたことが伺えます。

特筆すべきは絹・木綿交織による縞の繊細さ、縫取織・緯紋織の絹糸の色彩の豊かさで、細・太の多様な筋(縞)が端整かつ落ち着いた表情で引かれ、その間に金銀の色感を呈する浮文・緯紋織がほんのりとした光沢感を伴って織り込まれ、下裾には多彩な天然色染め絹を用いた高度な技巧の浮文・縫取織により緻密な幾何学文様が織り描かれており、織物全体がかもす雰囲気に得も言われぬ気品と格調の高さが感じられます。

タイ・プアン族の古い時代の織物は、天然染色の技術の高さと色彩の明瞭さに際立つ特徴が見られ、本布においても華やかさと落ち着きを兼ね備えた交織縞を筆頭に、ベニノキのアナトー色素で染める鮮やかなオレンジ、蘇芳の紺紫と藍の紺青、ウコンの黄と樹皮を用いるオリーブ掛かった黄の色の繊細な染め分け等が何とも見事、金銀の色表情と光沢を浮文で表出させた縞間の緯紋織を併せ、作品全体の色彩の完成度の高さに目と心を奪われます。

古の時代に日本に舶載された「間道(かんとう・かんどう)」を彷彿する表情のラオス織物です。







































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信仰の意匠 ベンジャロン合子&散蓮華

2018-02-21 00:25:00 | 古陶磁







製作地 中国・江西省 景徳鎮 Jingdezhen ※上絵付け及び錦窯焼成は広州の可能性あり
製作年代(推定) 19世紀
渡来地・使用地 シャム王国 チャクリー王朝期
素材/技法 白磁胎、五彩(上絵付け)


この色絵磁器”ベンジャロン(Bencharong)”は、大航海時代の到来・陸海交易路の発達をもとに海外との交易により国の繁栄を築き上げ4百余年にわたる覇権を維持した“アユタヤ王朝(1351年~1767年)”が、当時高度な製磁技術で世界をリードしていた中国に発注し製作が始まったもので、“ベンジャロン”の名称は中国名の”五彩”がサンスクリット語に訳されたものとなります。

”ベンジャロン”の製作地は中国・江西省の景徳鎮であることが研究文献及び窯址出土の陶片により確認されますが、貿易港広州地域の窯址からの陶片発見も伝わり、景徳鎮での白磁胎焼成後に、広州地域で上絵付けと錦窯焼成がなされた品モノがある可能性が指摘されております。

描かれるモチーフは多様で、中国的な花鳥模様及びその影響を受けつつ独自性が加わったデザインが多く見受けられますが、中には本作品に見られるような仏教・ヒンドゥの神話的モチーフ、シャム王国オリジナルと考察されるデザインも少なからず含まれており、これらは王国における宮廷儀礼・宗教儀礼に用いられるとともに来賓への贈呈物とされたことが知られます。

当時のシャム宮廷儀礼・宗教儀礼において、噛み嗜好品”蒟醤(キンマ・キンマーク)”の使用は欠かすことができないものであり、この合子と散蓮華もキンマ用の宮廷・貴族調度品として作られたものと推察されます。信仰の道具としての格調の高さが感じられる作品です。














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シャム王国渡り 19c ベンジャロン 散蓮華

2018-02-19 06:04:00 | 古陶磁









製作地 中国・江西省 景徳鎮 Jingdezhen ※上絵付け及び錦窯焼成は広州の可能性あり
製作年代(推定) 19世紀
渡来地・使用地 シャム王国 チャクリー王朝期
素材/技法 白磁胎、五彩(上絵付け)
サイズ 全長13.3cm、最大幅4.7cm、高さ約5cm、匙部深さ約1.5cm、重さ38g

中国・江西省の景徳鎮(Jingdezhen)で手掛けられシャム王国にもたらされた「ベンジャロン(Bencharong)」の散蓮華、19世紀のアンティークの作品です。

本品は”チャクリー王朝期(1782年~)”に入ってからの19世紀の作と推定されるベンジャロン散蓮華で、合掌姿の”天人テパノン(thepanom)”と”火焔文様クラノック(kranok)”の神話的モチーフが匙・柄内部の小さな面積上に力強い意匠で染め描かれたものとなります。

高度な五彩の技巧による鮮やかかつ立体感豊かな絵付けが薫り高く、シャム更紗とも繋がる宮廷デザイン様式の荘厳かつ妖艶な仏教的意匠、その濃密な精神性に惹き込まれます。

陶磁器や染織品がアジアの海を行き交った時代の、歴史の浪漫に惹き込まれる一品です。

























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