アジアの手仕事~生活と祈り~

アジア手工藝品店を営む店主が諸国で出逢った、愛すべき”ヒト・モノ・コト”を写真を中心に綴らせていただきます

ミャンマー 19c 木造金彩仏教浮彫パネル残欠・脇侍(童子)像

2021-12-15 04:50:00 | 仏神像




製作地 ミャンマー中部
製作年代(推定) 19世紀
素材 木製(チーク材)、漆、金彩
サイズ 高さ約19cm、幅(最大部)約12cm、奥行(最大部)約7cm、重さ215g

19世紀のミャンマーで手掛けられた仏教寺院や僧院を荘厳する浮彫パネルの部分(残欠)としての木造金彩脇侍像。

跪いて捧げ物をする童子の姿がハイレリーフ(高浮き彫り)の技法により立体感豊かに造形されたもので、浮彫パネル全形では中央に仏陀(菩薩)様が、左右に本品及び対となる童子が脇侍として配され、手には花(蓮華)を持していたのではないかと推察されます。

部分(残欠)ながら信仰のものとしての濃密な精神性が宿るとともに自律美を有している、欠損や漆金彩の古色を含め”残欠ゆえに美しい”と実感される浮彫像です。






































(光学顕微鏡による画像)


室町時代 銅造”薬師如来”懸仏(御正体)

2021-11-16 04:53:00 | 仏神像




製作地 日本 ※地域不詳 
製作年代(推定) 14-15世紀 室町時代
素材/技法 銅製 / 鋳造、線刻
サイズ 高さ5.5cm、幅4.3cm、奥行(背側突起部含む)約2cm、重さ44g / パネル台(発砲ボード・ABS樹脂) 高さ16cm、幅11cm、奥行(台底部)4cm、パネル厚み5mm

14-15世紀の室町時代に手掛けられた銅造懸仏(御正体)。

肌の荒れ具合から火災の熱を受けた火中仏と推察され、形状が判然としない左手は熱で熔解したものと思われますが、掌に持物(薬壺)の痕跡が残り”薬師如来”と判断されます。

螺髪が省略され帽子のような形状で表された肉髻、身体に着いたまま屈臂し掌を立てるように表現された施無畏印、浅い毛彫りで刻まれた衣文と蓮弁、これらの特徴は懸仏の製作が地方に広まる過程で形式化が進んだものと捉えることができます。

質朴な像容ながら神仏習合を背景とする信仰の精神性、御正体としての神秘性が実感される作品であり、古銅の深みある色合いをあわせ像から発せられる厳かな空気感に惹き込まれます。

































(光学顕微鏡による画像)


江戸時代中期 木造”阿弥陀如来”化仏

2021-11-13 04:48:00 | 仏神像




製作地 日本 ※地域不詳 
製作年代(推定) 18世紀 江戸時代中期
素材 木製、漆塗り、金彩、鉄釘(和釘)
サイズ 高さ7.8cm、幅4.5cm、奥行2.7cm、重さ14g / パネル台(発砲ボード・ABS樹脂) 高さ16cm、幅11cm、奥行(台底部)4cm、パネル厚み5mm

高さ約8cm、江戸時代中期の木造金彩”阿弥陀如来”化仏(けぶつ)。サイズと彫りの繊細さから、大ぶりかつ端整なつくりの寺院本尊の光背に配されていたと推察される作品です。

実際に使われていたオリジナルの鉄釘(和釘)が一緒に伝わっており、破損無く金彩が残る状態の良さから、本尊から外されたのちに大切に保管・継承されてきたものと思われます。

江戸時代中期に遡る木造仏は、火災を中心とする災禍及び明治初期の廃仏毀釈さらには昭和の戦時下に多くが失われており、当時の姿が保たれ残存するものは特別稀と言うことができます。

静謐な坐姿で阿弥陀定印を結び、目にする角度や光の加減で変化する表情は慈愛に満ち、本体像に付属する光背化仏ながら単独の仏像としての完成美が宿ります。




































(光学顕微鏡による画像)


スワート 2-5c 雲母片岩・仏伝図パレット

2021-11-10 04:18:00 | 仏神像




製作地・出土地 パキスタン マラカンド地区 スワート Swat
製作年代(推定) 2-5世紀
種類 仏伝図 パレット(化粧皿)
素材 雲母片岩
サイズ 直径約13cm、奥行約1.5cm、重さ369g / スタンド(木製) 横幅8cm、高さ7cm、奥行8cm

”化粧皿(パレット)”の呼称で知られる、パキスタン・スワート出土の円盤状の雲母片岩彫刻像。

ヘレニズム色の薄い古拙な彫り意匠が印象的な作品で、北方山岳部スワート地方ガンダーラ彫刻の特徴に符号するものとなります。

三尊形式の像容ですが、脇侍の姿から梵天勧請の仏伝図が表されたものと考察されます。

スワートでは仏陀が人の姿で表現される以前の初期仏教美術の作例も出土しており、ギリシャ・ローマの影響を受ける前に遡る”プレ・ガンダーラ時代”に仏教彫刻製作の萌芽があるとともに、ガンダーラ地方とは異なる独自の盛衰の歴史があるとする研究・学説が存在します。

スワート仏教美術固有の長閑やかさとあたたかみを有する彫刻表情に惹き込まれる一品です。


























(光学顕微鏡による画像)


ガンダーラ 3-4c ストゥッコ・菩薩頭部像

2021-01-12 15:24:00 | 仏神像






製作地・出土地 パキスタン・ガンダーラ地方 タキシラ-タルベラ Taxila-Tarbela
製作年代(推定) 3-4世紀
種類(推定) レリーフパネル中の菩薩立像或いは坐像の頭部
素材 ストゥッコ、※部分的に赤い彩色の痕跡(酸化鉄或いは酸化水銀)
サイズ 高約11.5cm、幅約9.5cm、奥行約9cm

パキスタン・ガンダーラ地方で3~4世紀に手掛けられた、ストゥッコ製の”菩薩頭部像”。

ガンダーラ仏教美術においてストゥッコ(化粧漆喰)は片岩と並ぶ彫刻・彫塑の主要素材となりますが、2世紀には製作の盛期に入ったとされる片岩よりもやや遅れ、ストゥッコは3~4世紀頃に製作の盛期をむかえたものと考察されております。

アフガニスタン東部ハッダのガンダーラ遺跡より多数のストゥッコ像が出土したことにより、本品に類するストゥッコ製の仏像に対して総じて”ハッダ”の名が冠せられますが、パキスタン・ガンダーラ地方のタキシラ及びタルベラからも同種のストゥッコ像が出土しており、いずれの地においても完成度の高い優品が生み出された様子を、現存する作品により確認することができます。

仏頭像では、ハッダはやや面長(瓜実顔)の傾向が見られ、タキシラ-タルベラにおいては丸顔で鼻と唇の間が短く、口元から顎が引き締まった表情のものが多いという傾向を見出せます。

本品はタキシラ-タルベラ系の仏頭像に典型的な丸顔で、波状の頭髪と頭頂の花冠装飾(摩耗のため細部が判然としないものの冠帯と推察されるもの)もあいまって、どこか中性的で若い(幼い)雰囲気を感じさせるもの、端麗かつ優美で気品溢れる顔相に心惹かれる作品です。





















●参考画像
ペシャワール博物館所蔵 同地域製作のストゥッコ・菩薩頭部像


(写真 パキスタン カイバル・パクトゥンクワ州 ペシャワールにて)





●本記事内容に関する参考(推奨)文献