アジアの手仕事~生活と祈り~

アジア手工藝品店を営む店主が諸国で出逢った、愛すべき”ヒト・モノ・コト”を写真を中心に綴らせていただきます

タイ・デーン ”神獣シーホー文”縫取織間仕切り布

2017-12-28 00:55:00 | 染織











製作地 ラオス北東部 フアパン県 Houaphan Province
製作年代(推定) 20世紀中期
民族名 タイ・デーン族(Tai Daeng)
素材/技法 木綿、絹、天然染料、化学染料 / 平地、縫取織、緯紋織
サイズ 横幅(緯)50cm×縦(経)166cm

この大判の縫取織布“パー・カン”は、フアパンにおいて婚礼仕度品として手掛けられる慣習を有してきたもので、木の柱と竹編みの外壁により作られる高床式の伝統家屋において、主にプライベート空間を設けるための間仕切りや扉代わりの布として用いられてきたものとなります。

本体布を別布で額縁状に縫い上げ大判・厚手に仕上げることで、防寒や蚊除けの遮蔽布とする実用性とともに、外から家の中に魔・病が入り込まないようにという厄災除けの意と吉祥・豊穣の祈りが込められている点を指摘することができます。

本品は、単糸×双糸の木綿赤糸で密に織られた地に、手引きの絹釜糸を多色に染めた糸(黒糸は木綿)により、”象と獅子が混交した神獣シーホー””精霊(人型)文”をメーンに大小の幾何学文様が布面積いっぱいに高密度で描き込まれたもの、文様は一見すると刺繍とも思えますが、実際には”絵緯・縫取織”の技法で一糸一糸が紋綜絖の操作と手指で織り入れられることで完成に至るもの、糸作り・糸染めから手仕事で行なわれる高度な染織作品となります。

近年では、生活環境の変化(取り分け家屋の変化)により、家の中に間仕切りや扉として布を吊るす場面は減り、婚礼に際して膨大な手間隙を掛けてこの種の染織作品を手掛ける慣習は薄れてしまい、昔ながらの素材・技巧・意匠様式による本来の”パー・カン”と言えるものは、僅かに残存するオールド&アンティーク作品でのみ目にできるといったところとなりました。









































●本記事内容に関する参考(推奨)文献
 

タイ・デーン ”ナーガ&精霊文”縫取織ブランケット

2017-12-26 21:08:00 | 染織






製作地 ラオス北東部 フアパン県 Houaphan Province
製作年代(推定) 20世紀中期
民族名 タイ・デーン族(Tai Daeng)
素材/技法 木綿、天然染料、化学染料(赤) / 平地、縫取織
サイズ 横幅(緯)66cm(二枚接ぎ)×縦(経)148cm

ラオス北東部の山間地域では、最寒季の朝晩には気温が10℃を下回り0℃近くに達するほどの寒さとなる場合があり、防寒用のブランケットを日用の染織作品として手掛ける伝統が受け継がれてきました。ブランケットには主に肩から掛けたり・体に巻いて用いる“パー・トゥーム”と、主に掛け布団として用いる縁布付き大判の“パー・ホム”とがあり、敷き布、蚊帳、ドアカーテンなどとともに婚礼仕度品とも位置付けられ、手の込んだ染め織り技法による装飾性豊かな作品が生み出されてきました。

本品は、経緯双糸遣いの木綿赤糸で密に織られた地に、手紡ぎ木綿を天然染料で多色に染めた糸を絵糸とする”浮文”縫取織の技法によって、”蛇龍神ナーガ(ナーク)”を表わす鉤状格子文及び”精霊”を表わす人型モチーフを主体とする文様が織り表されたもの、中央二枚接ぎで緯66cm×経148cmのサイズに仕立てられており、製作当初は縁布が付され“パー・ホム”として使用され、後年傷んだ縁布を取り除き本体布のみが保存・継承されてきたものと推察されます。

大判の布上に生命感豊かに表現された多色縫取織の文様が見事、鮮やかな赤地のうえに繊細かつ力強い表情で織り込まれた浮文・縫取織の色彩美と文様の完成美に目と心を奪われます。

縫取織は”白・浅葱・紫・藍”の4色遣いですが、巧みな色濃淡・グラデーション及び色切り替えが加えられており、作品全体の色彩構成に得も言われぬ豊かな味わいが感じられます。

蚊を媒介とするマラリア等の病気が多いラオス北東部の山間地域において、ブランケットは防寒性とともに蚊除けの用を成すものであり、神仏への祈りとともに吉祥・守護の文様が織り込まれるもの、作品からは単なる装飾デザインとは異なる精神性が感じられるところとなります。





































●本記事内容に関する参考(推奨)文献