アジアの手仕事~生活と祈り~

アジア手工藝品店を営む店主が諸国で出逢った、愛すべき”ヒト・モノ・コト”を写真を中心に綴らせていただきます

マルチカラーの巻き絞り”モトゥラ”ターバン

2011-04-30 05:50:00 | 染織






製作地 インド・ラージャスタン州 マルワール地方  
製作年代(推定) 20世紀前期
素材/技法 木綿(木綿モスリン)、染料 / 巻き絞り染め(対角格子絞り) ラハリア(モトゥラ)

細手の木綿糸で薄く織り上げられた上質な“木綿モスリン”をベースに、長さ15~20mにも達する(本品は約16m)一枚布を、端から端まで斜め方向に螺旋状に巻き、文様の防染する部分を蝋引きの糸で絞り、染料に浸染する方法で色染めが行われた”ラハリア(モトゥラ)”技巧のターバン。

染めの色数と柄変化に従い、巻き・絞り・染めの工程を何度も繰り返すものであり、本作品のようなマルチカラーの精緻な文様を染め出すためには、熟練した高度な職人技と膨大な手間隙を要するものとなります。

素材面・技巧面を併せて、今では失われし表情のものであり、タール砂漠の厳しい気候風土とマルワーリーの美的感性が育んだ、古き良きインド染織及び職人手仕事の逸品です。







結婚式のための特注のうちわ

2011-04-27 04:49:00 | 技巧・意匠・素材




製作地 インド・グジャラート州 カッチ地方  
製作年代(推定) 20世紀半ば
民族名 ジャイン(ジャイナ教徒)

結婚式に際して、職人に特別に発注して手掛けられたうちわ(ハンドファン)。持ち手を支点にくるくると回転するつくりとなっており、新郎新婦が用いた品モノとなります。

上質な手織りのシルクサテン地、吉祥の薫り溢れる流麗で華やかな刺繍、ろくろ挽きで成型され天然のラックで色付けされた持ち手(軸)、それぞれ専門職人の手によるものであり、地域コミュニティが機能していてこそ、生まれ得ることができた作品です。

本品は”ジャイン”が使用したものですが、布織り・刺繍・木工には”ヒンドゥ”や”イスラーム”の人々が関わったことが伺える作例です。







ラージャスタン砂漠地帯のウール・スカート

2011-04-26 05:49:00 | 民族衣装




製作地 インド・ラージャスタン州 ジョドプール近郊  
製作年代(推定) 20世紀半ば
民族名 ビシュノイ族  
素材 ウール地、ウール刺繍

”29”の戒律を守ることが民族の名前の由来ともされる(異説あり)ヒンドゥの民”ビシュノイ族”の手による婚礼用のウール織り地・ウール刺繍スカート。

短い冬季以外は厳しい暑さが続くタール砂漠エリアで、厚手で重いウール織り地スカートの実用性はほとんど無く、ラージャスタン西部エリアにおいて、このビシュノイ族の作例以外には、ウール製のスカートを目にすることはまずありません。

このスカートは、婚礼に際して幸福と平安、取り分け子宝と羊の豊穣を祈りつつ手掛けられるものであり、裾部には色柄を繊細に変えた多数の”寺院”(地母神”マータ”でもある)文様が取り巻くように描かれ、裾先にも多様な守護・吉祥文様のかがり刺繍が施されます。

ビシュノイ族は、動物と自然を愛好し、自然環境の保護・維持を生活の旨としてきた人々であり、自家製ウールを用いた祈りの意匠のスカートは、彼らの精神性が反映されたものでもあります。