マックンのメモ日記

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中国の為替「操作」にまつわる神話!

2016-01-11 21:56:47 | 経済・金融・投資
年明け以降、世界の株式市場が急落し、多くの人が混乱の主因は中国人民銀行による人民元の切り下げだと主張しています。

 これまでも人民元が切り下げられると中国が卑怯な手を使っているという非難の声が上がりました。例えば、米大統領選の有力候補ドナルド・トランプ氏はウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)への寄稿文で「中国の通貨の理不尽な操作」は「米国国民から数十億ドルの資本と数百万の雇用を奪っている」と主張しました。

 こうした誇張に切り込むには、中国の為替制度の仕組みとその影響を理解する必要があります。先週の株安があったからだけではありません。今年は環太平洋経済連携協定(TPP)など他の問題との絡みで人民元が議論されるからです。要点は3つあります。

 1つ目は、中央銀行は通貨発行という法律で認められた独占権限のおかげで、物価の安定や完全雇用といった政策目標を達成する手段として1つの名目価格を固定することができる、ということです。

 現在は名目金利の固定を選ぶ中央銀行が多い。米連邦準備制度理事会(FRB)は銀行同士が翌日返済の資金を貸し借りするときに払う金利フェデラルファンド(FF)レートを、欧州中央銀行(ECB)は翌日物の貸出金利「限界貸出ファシリティ」の金利を対象としています。名目為替レートを固定する中央銀行もあります。例えば人民銀行はこれまで米ドルと人民元の為替レートを固定していましたが、先月以降は13の通貨で構成されるバスケットに対して元相場を固定しています。

 通貨の切り下げも切り上げも独立した金融政策を行使しているにすぎません。第2次世界大戦後のブレトンウッズ体制下では、多くの国がドルに対して自国の通貨を固定し、FRBはドルの価値を金1オンス=35ドルに固定していました。

 分別のある人なら各国が金融政策を実施する方法について異議を唱えることもあるでしょうし、実際、異議を申し立てています。しかし、金融政策の実施そのものに操作というレッテルを貼ることは中央銀行の運営と目標を根本的に取り違えていることを白状するようなものです。人民銀行の周小川総裁が為替を操作しているというなら、FRBのジャネット・イエレン議長は金利を操作していることになります。

 2つ目の要点は、人民元の名目為替レートの動きが世界的な輸出入の動向や平均賃金など貿易を超えた幅広い側面に長期的な影響を与えることはほとんどないということです。貿易動向にとって重要な為替レートは実質為替レート、すなわち名目為替レートを貿易に関わる両方の国の現地通貨価格に対して調整した為替レートでなのです。

 実質為替レートは技術や、労働力や資本といった資源など比較優位という根本的な力を反映しています。こうした力は金融政策に関係なく貿易を動かしています。

 貿易に関わっている企業について考えてみると、人民元が切り下げられても、中国企業が元建ての価格を引き上げるためその影響は部分的に相殺されることが多いのです。多くの学術的な文献で繰り返し指摘されているように、ある国の輸出企業の間で利益競争が起きると、通常はその国の名目為替レートの変動の半分程度が相殺されます。現在はさらに多くの企業が世界的な供給ネットワークの中で活動しており、貿易と投資によってさまざまな国でさまざまな生産段階が結びついています。ネットワークに組み込まれたこうした企業では収入と費用の両方がさまざまな通貨で発生するため、企業の貿易競争力は1国の通貨が変動したところでほとんど変わりません。

 名目為替レートの長期的な変動は多くの場合、世界の貿易動向の進化とは関係ありません。ブレトンウッズ体制の崩壊後、ドルは日本円に対して下落を続け、固定相場時代には360円だった1ドルの価格は1995年には平均でたった94円になった。この間、米国は対日貿易で大幅な黒字に振れたでしょうか。答えはノーです。

 米国の対日貿易赤字は1970年には12億ドルだったのが、1995年にはその50倍の591億ドルにまで増加しました。同じように、2004年から2014年までの間にドルは人民元に対して約25%下落しました。この10年間で米国の対中貿易赤字は1619億ドルから3426億ドルに急増したのです。

 3つ目の要点は、中国が多くの資本規制を緩和するにつれて、強い力が人民元の価値を押し下げることです。中でも最も強い力は中国の世帯や企業の間でうっ積していた中国以外の資産への投資需要でしょう。

 中国ではこの35年間で所得と富が急増しましたが、海外の資産には投資する機会はほとんどなかったのです。そのおかげで国内の不動産価格は高騰し、家計の貯蓄率も上昇しました。資本流出に関する規制が緩和されれば中国国内で中国以外の資産に対する需要が拡大し、中国以外の通貨への需要も膨らむでしょう。

 世界が一部の中国の経済政策に関して抱いている懸念は正当なものです。中国にはあまりに多くの貿易障壁や投資障壁があります。地元企業を優遇しすぎているし、知的財産の保護も脆弱すぎます。しかし、米国やその他の国の指導者が人民元の問題で中国を脅せば脅すほど、米国に多くの雇用と多額の賃金という犠牲を強いている政策の不足を克服するよう働きかけることは難しくなるのです。(ソ-スWSJ)