百度(バイドゥ)は長らく中国の検索エンジンでほぼ独占的な地位を享受してきました。しかし最近は、将来の展望に影を落とすさまざまな問題で知られるようになっています。
ある若者が百度に広告掲載されたがん治療法を試みた後死亡したことを受け、当局は調査に乗り出しました。株価が年初来で約15%下落する中、百度は4-6月期(第2四半期)の売上高予想を10%近く下方修正しました。4-6月期決算は29日に発表する予定。
トムソン・ワン・アナリティクスがまとめたアナリスト予想では、純利益が前年同期比42%減の3億4500万ドル(約360億円)と見込まれています。
「グレートファイアウオール(防火長城)」と呼ばれる中国のインターネット監視体制下で、百度が検索エンジンを主導しているのは明らかです。7億人のインターネット利用者を擁する中国市場で80%ものシェアを誇っています。2010年に中国から撤退した米グーグルの米検索エンジン市場でのシェアは64%です。
しかし百度は、中核とする検索エンジン以外への業容拡大で成長することに失敗しました。電子商取引大手の阿里巴巴集団(アリババ・グループ・ホールディング)や、インターネットサービス大手の騰訊控股(テンセントホールディングス)に比肩すると見なされていた時期もあったのですが、これらの企業は時価総額を約4倍に伸ばしています。アナリストらによると、アリババとテンセントは事業基盤の拡大で百度より大きな成功を収めました。
一例を挙げると、アリババとテンセントはいち早くモバイル決済システムの構築に動きましたが、百度はアリババの「支付宝(アリペイ)」に10年遅れ、2014年にようやく「百度銭包」(百度ウォレット)を立ち上げたのです。百度ウォレットの利用者が4500万人にとどまっているのに対し、アリペイは4億5000万人を超えています。
GGVキャピタルのマネジング・ディレクター、ジェニー・リー氏は「百度に有能な人材が不足しているわけではないのに、市場の先頭に立ったことがない」と話しています。戦略計画で常に長期的な見通しを据えるとは限らないことも指摘しています。つまり、百度にとってはいまだに検索エンジンの重要度が高いというわけです。
百度のある幹部は公に発言することを禁じられているとしつつも、「バーチャルリアリティー(仮想現実)やドローン(小型無人機)の研究で先頭を走っているべきだ」と述べました。「しかし当社は検索エンジンに集中しすぎている」といいます。
2015年12月期は100億ドル(約1兆円)の売上高のうち94%を、主に検索エンジンと連動する広告で稼ぎ出しています。アナリストの推計では、医療関連広告が特に好調で、広告収入全体の20〜30%を占めています。
しかし医療関連広告には注意も要します。希少がんを患う大学生が百度の広告で見つけた3万1000ドルの代替療法を試して死亡したことから、同社は4月、厳しい批判にさらされました。
李彦宏・最高経営責任者(CEO)はこの時珍しく、百度が道に迷ったかもしれないと認めました。5月10日付の従業員宛ての書簡では「百度が設立されたばかりの当初を思い出すと、グーグルなどの競合と利用者を奪い合う闘いが主だった」とし、「(今や)上級エンジニアが商業的な利益と利用者の使い勝手のはざまでためらい、妥協さえしている」と記しています。
検索エンジンは百度の柱となる事業ですが、多くの場合に情報は限られています。政府の検閲だけが理由ではありません。グーグルで「がん」をキーワードに検索すれば、米国がん協会(ACS)などの優れた団体を見つけられます。しかし百度の利用者は、がん患者同士がアドバイスを交換し合うフォーラムのようなものしか見つけられないのです。
百度は、中国の検索エンジンで独占的な地位に立つだけの努力をしてきたとし、「卓越した使いやすさ」を実現するための信頼性の高い検索システム構築へ力を尽くしていると述べました。がん患者の大学生の死亡を巡る政府の調査にも協力しているといいます。
百度の内情に詳しい関係者の1人は、インターネットが絡むあらゆる分野に進出しようとしているわけでも、すべての研究分野で収益を上げられるわけでもないと語りました。この関係者は、百度を代表して取材に応じる権限を与えられていないものの、中核技術やデータを活用できる投資に集中していると述べました。具体的にはオンライン旅行会社を例に挙げています。
百度が検索エンジンに一見関係がない自動運転車などの分野へも進出しようとしているのは確かです。しかしそこにはデータという関連があります。グーグルの人工知能(AI)研究部門を立ち上げた後に百度へ引き抜かれたアンドリュー・ング氏が技術担当トップとして果たすべき使命は、百度が持つ膨大なデータの集積を新たな収益源に変えることです。
それでも、新たな取り組みが検索エンジンに代わる成長けん引役となるまでには時間がかかるでしょう。利用者がより洗練され、検索の規制が強化される中、百度は利益が少なくなる検索エンジン事業での優位な地盤にしがみつき続けるかもしれません。
モーニングスターのアナリスト、マリー・サン氏は「百度は世評上の危機に直面しているが、近いうちに(中国で)別の検索エンジンに地位を奪われるとは思わない」との見方を示しています。「中国政府がグーグルを中国本土から閉め出している限り、百度は主導的な立場を維持するだろう」と述べています。(ソースWSJ)
ある若者が百度に広告掲載されたがん治療法を試みた後死亡したことを受け、当局は調査に乗り出しました。株価が年初来で約15%下落する中、百度は4-6月期(第2四半期)の売上高予想を10%近く下方修正しました。4-6月期決算は29日に発表する予定。
トムソン・ワン・アナリティクスがまとめたアナリスト予想では、純利益が前年同期比42%減の3億4500万ドル(約360億円)と見込まれています。
「グレートファイアウオール(防火長城)」と呼ばれる中国のインターネット監視体制下で、百度が検索エンジンを主導しているのは明らかです。7億人のインターネット利用者を擁する中国市場で80%ものシェアを誇っています。2010年に中国から撤退した米グーグルの米検索エンジン市場でのシェアは64%です。
しかし百度は、中核とする検索エンジン以外への業容拡大で成長することに失敗しました。電子商取引大手の阿里巴巴集団(アリババ・グループ・ホールディング)や、インターネットサービス大手の騰訊控股(テンセントホールディングス)に比肩すると見なされていた時期もあったのですが、これらの企業は時価総額を約4倍に伸ばしています。アナリストらによると、アリババとテンセントは事業基盤の拡大で百度より大きな成功を収めました。
一例を挙げると、アリババとテンセントはいち早くモバイル決済システムの構築に動きましたが、百度はアリババの「支付宝(アリペイ)」に10年遅れ、2014年にようやく「百度銭包」(百度ウォレット)を立ち上げたのです。百度ウォレットの利用者が4500万人にとどまっているのに対し、アリペイは4億5000万人を超えています。
GGVキャピタルのマネジング・ディレクター、ジェニー・リー氏は「百度に有能な人材が不足しているわけではないのに、市場の先頭に立ったことがない」と話しています。戦略計画で常に長期的な見通しを据えるとは限らないことも指摘しています。つまり、百度にとってはいまだに検索エンジンの重要度が高いというわけです。
百度のある幹部は公に発言することを禁じられているとしつつも、「バーチャルリアリティー(仮想現実)やドローン(小型無人機)の研究で先頭を走っているべきだ」と述べました。「しかし当社は検索エンジンに集中しすぎている」といいます。
2015年12月期は100億ドル(約1兆円)の売上高のうち94%を、主に検索エンジンと連動する広告で稼ぎ出しています。アナリストの推計では、医療関連広告が特に好調で、広告収入全体の20〜30%を占めています。
しかし医療関連広告には注意も要します。希少がんを患う大学生が百度の広告で見つけた3万1000ドルの代替療法を試して死亡したことから、同社は4月、厳しい批判にさらされました。
李彦宏・最高経営責任者(CEO)はこの時珍しく、百度が道に迷ったかもしれないと認めました。5月10日付の従業員宛ての書簡では「百度が設立されたばかりの当初を思い出すと、グーグルなどの競合と利用者を奪い合う闘いが主だった」とし、「(今や)上級エンジニアが商業的な利益と利用者の使い勝手のはざまでためらい、妥協さえしている」と記しています。
検索エンジンは百度の柱となる事業ですが、多くの場合に情報は限られています。政府の検閲だけが理由ではありません。グーグルで「がん」をキーワードに検索すれば、米国がん協会(ACS)などの優れた団体を見つけられます。しかし百度の利用者は、がん患者同士がアドバイスを交換し合うフォーラムのようなものしか見つけられないのです。
百度は、中国の検索エンジンで独占的な地位に立つだけの努力をしてきたとし、「卓越した使いやすさ」を実現するための信頼性の高い検索システム構築へ力を尽くしていると述べました。がん患者の大学生の死亡を巡る政府の調査にも協力しているといいます。
百度の内情に詳しい関係者の1人は、インターネットが絡むあらゆる分野に進出しようとしているわけでも、すべての研究分野で収益を上げられるわけでもないと語りました。この関係者は、百度を代表して取材に応じる権限を与えられていないものの、中核技術やデータを活用できる投資に集中していると述べました。具体的にはオンライン旅行会社を例に挙げています。
百度が検索エンジンに一見関係がない自動運転車などの分野へも進出しようとしているのは確かです。しかしそこにはデータという関連があります。グーグルの人工知能(AI)研究部門を立ち上げた後に百度へ引き抜かれたアンドリュー・ング氏が技術担当トップとして果たすべき使命は、百度が持つ膨大なデータの集積を新たな収益源に変えることです。
それでも、新たな取り組みが検索エンジンに代わる成長けん引役となるまでには時間がかかるでしょう。利用者がより洗練され、検索の規制が強化される中、百度は利益が少なくなる検索エンジン事業での優位な地盤にしがみつき続けるかもしれません。
モーニングスターのアナリスト、マリー・サン氏は「百度は世評上の危機に直面しているが、近いうちに(中国で)別の検索エンジンに地位を奪われるとは思わない」との見方を示しています。「中国政府がグーグルを中国本土から閉め出している限り、百度は主導的な立場を維持するだろう」と述べています。(ソースWSJ)