Chet Baker / Sings Vol.2 ( EU Valentine Records 896701 )
世界的なレコード・ブームというのはやはり本当のようで、次々と新品レコードがリリースされている。過去の名盤の復刻もあれば、真っさらの
新作もあり、ユニオンのブログを見ているだけで楽しい。まあ、積極的に買おうという気はないので基本は眺めているだけなんだけれど、
ごく稀に「これはちょっと聴いてみたいな」というのがあって、手を出すこともある。
このチェットのアルバムもそんな1枚。"Sings And Plays" をベースに、他アルバムへ散逸していた歌物やおそらくは未発表だったものを
1枚に纏めて、例のカヴァーを流用して第2集という形にしてる。チェットのヴォーカルだけに集中できるという点で非常に優れた編集で、
これは有難いアルバムだと思う。ジャケットのカラーも新しいグリーンがよく効いていて、発色もよく、とてもきれいだ。
音質も良好で、"Sings And Plays" 収録の曲はオリジナルとまったく同じ音質で驚く。曲によって音圧や音場が異なっていて、どうやら
オリジナルのマスターを何もいじらずにそのままカッティングしているようで、それがよかったのではないか。音の鮮度がいい。
それにプレスの品質も高い。まるで溝に針が吸い込まれるかのように、きれいに完璧にフィットしているのが目に見えるようだ、
まったくノイズが出ない。イマドキのレコードプレスの品質の高さは本当に驚くべきことだと思う。
こうやって聴いていると、彼は随分たくさんの歌をこのレーベルに録音していたんだなあということに改めて驚かされる。
どれも飾り気のない歌い方だが、そこがよかった。上手い歌手はいくらでもいるが、まるで独り言を言っているかのように歌い、
それがこんなにも心地よい気分になる例は他にない。稀有な歌い手だった。
180gの重量盤というのはもはや常識になっているのだろう。薄っぺらい盤よりはその方がいいから、そのことについては何も文句はないが、
ジャケットの作りがいただけない。ちゃんと厚紙仕様にするべきだと思う。ラミネートコートしてあると、尚のこといい。
でも、そうするとコストアップになるんだろう。レコードというのは、盤よりもジャケットの方が遥かに金がかかる。
最近の新品レコードの課題はここにある。
John Coltrane / Blue Train ~ The Complete Masters ( 米 Blue Note / UMG Recordings 454-8107 )
私の場合、ブルーノートの音はクセが強くて確かにジャズっぽいけれど、さほど音がいいという訳ではない、というのが昔からの持論。
だから、世間が言うほどの有難みは特に感じてはいないので、最新リマスターというのには興味がある。特に、このタイトルはステレオ盤が
聴いてみたかったので買ってみた。
結論としては、とても良好でいい音だと思う。音場感が立体的になって、3管編成の良さがより際立っていると思う。
私の好きなアート・ブレイキーの "Mosaic" のステレオ盤がちょうどこんな感じのサウンドで、非常に好ましい。すっきりとしているけれど、
しっかりと厚みがあって、ブルーノートらしい暗い残響感がちゃんと残っている。モノラルだと音が潰れがちなフラーのトロンボーンも
音色の輪郭がくっきりとしている。各楽器の位置関係が明確になり、それにより音楽そのものも整理されているように感じる。
ヴァン・ゲルダー自身のカッティングだと言われても違和感なく信じる人がいるかもしれない、そういう感じの音だと思う。
ブルーノートらしさが失われることなくしっかりと出ていて、音の輝きもブリリアント。うまいリマスタリングではないだろうか。
人によっては眉を顰めるであろう別テイクを収めた2枚目の方も、私は興味深く聴いた。繰り返しリハーサルをやったと言われるブルーノートの
録音の様子が手に取るようにわかる、というところに価値があるし、演奏自体もそんなに悪くない。どの別テイクでも、やはりモーガンが一番
輝いている。この日の彼はベスト・コンディションだったんだろうなということがよくわかる。
こちらはジャケットがラミネートコ-ティングされていて、写真の解像度も高く、オリジナルと比べてもまったく遜色ない。金がかかっている。
その分、値段が高いのが難点だけど、最近のビル・エヴァンスの未発表レコードのジャケットの質感のチープさを思えば、似たような値段でも
こちらはまだ納得できるのではないだろうか。とにかく気になるのが音質だろうと思うけど、ケチをつけるべきところは何一つない。
手に入れて後悔することは、まずないだろう。