廃盤蒐集をやめるための甘美な方法

一度やめると、その後は楽になります。

実は大傑作

2022年10月25日 | Jazz LP (Riverside)

The Jazz Brothers / Spring Fever  ( 米 Riverside RLP 405 )


当時、リヴァーサイドの新人発掘担当をしていたキャノンボール・アダレイに見出された無名のチャック・マンジョーネは兄のギャスパールと
"The Jazz Brothers" を名乗ってデビュー、リヴァーサイドにアルバムを3枚残している。半年ごとに立て続けに録音していることから、
期待の新人だったようだ。

メンバーは全員無名の若手で、何とも溌剌とした気持ちのいい演奏をしていて、くたびれた大人の澱んだ心を浄化してくれるようだ。
若者らしく、アルバムを出すごとに音楽が眼に見えて進化しているのが凄いが、最終作であるこのアルバムが実は大傑作に仕上がっている。
それまでのアルバムと様子がまったく違っていて、少し欧州ジャズっぽい雰囲気が漂う。

バンドとしての纏まりの良さが格段に進歩していてリズム感も抜群だが、ただ勢いに任せるだけではなく十分な間を生かせるようになっており、
静寂をうまく表現する瞬間が随所に見られる。そこにチャックの濡れたラッパの音が切なげに鳴り響く様が圧巻。"朝日のように爽やかに" では
マイルスとギル・エヴァンスが "Dear Old Stockholm" でやったアレンジを取り込んで恐ろしくカッコよく仕上げていて、こういうところが
欧州の若者たち、例えば The Diamond Five のような若者たち、がジャズへの憧れを抱いて演奏した感覚と共通している。如何にも50年代の
ジャズを聴いて育ちました、という感じがストレートに出ていて、そういう飾り気のない素直さが聴いている私の心を打つ。

デビュー・アルバムのいささか肩に力の入った硬さなどはここでは皆無で、メンバーたちの余裕のある一体感や演奏のキレの良さは素晴らしく、
こんなにも短い期間でここまで成長するのかということに軽い嫉妬混じりの羨ましさを感じずにはいられない。

タレント・スカウトのキャノンボールはいい仕事をしたが、期待に応えた5人の若者たちも立派だった。この素晴らしい勢いがここでプツリと
途切れてしまうのが何とも惜しいが、それでもこうして傑作が残ったというのは有難いことだった。



コメント (2)
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