Sal Nistico Quintet / Comin' On Up ! ( 米 Riverside RM 457 )
マンジョーネ兄弟のバンドは当時無名の若者たちで構成されていたけど、その中でテナーを吹いていたのがサル・ニスティコだった。
19歳でバンドに加わり2年間活動を共にしたが、そこでのプレイが認められたのだろう、リヴァーサイドに2枚の自己名義アルバムを残している。
ソロ第2作のこのアルバムはバリー・ハリス、ボブ・クランショウらリヴァーサイドお抱えのピアノ・トリオがバックを支える、如何にもこのレーベル
らしい滋味溢れるカラーに染まった傑作に仕上がっている。
冒頭はパーカーの "Cheryl" で幕が開き、ビ・バップのムードで始まる。太くどっしりとしたテナーの音色がよく映える演奏で、ジャズの濃厚な匂いが
部屋に充満するが、2曲目になるとユーロ・ロマネスクな楽曲へと変わり、まるでダスコ・ゴイコヴィッチのアルバムのような雰囲気に一変。
その後も陽気なカリプソ調な楽曲だったり、翳りのあるスタンダードだったり、と何とも引き出しの多い展開になる。
それが散漫な印象にはならず一本筋が通った纏まりの良さがあるのは、ニスティコの太い幹の大樹のようなテナーのおかげだ。21歳の若者が
吹いているとは思えない落ち着きと上手さで、音楽が非常に引き締まっている。リーダー作がなかったトランペットのサル・アミコもデリケートな
フレーズを紡ぐいい演奏で楽曲の幅を拡げているし、バリー・ハリスもフラナガンのような趣味の良いサポートをしており、それらが一体となって
上質な音楽に仕上がった。最後はマイルスの若い頃の楽曲 "Down" で締め括られて、うまく着地する。このアルバムはとてもいい。
3大レーベルの中でこの時期にこういう無名の白人の若い演奏家のアルバムを作っていたのはリヴァーサイドだけだった。ブルーノートは
新主流派を牽引しようとしていたし、プレスティッジはソウル・ジャズへ舵を切ろうとしていた。白人ミュージシャンは発表の場がなく、
埋もれたままで終わった人たちも多かったのだろう。そんな中でセールスの見込みもない若者に機会を与えたリヴァーサイドは偉かったが、
その期待に満点以上で応えた彼らも立派だった。時代が変わる節目のど真ん中にいた若者たちが、その時に何をやろうとしていたかを捉えた、
これは本当に貴重な記録なのである。