廃盤蒐集をやめるための甘美な方法

一度やめると、その後は楽になります。

見た目はイケてるのに名盤になれなかった作品

2020年03月20日 | Jazz LP (Columbia)

The Jazz Messengers  ( 米 Columbia CL 897 )


マニアでなくても食指のそそるアルバムだ。ブルーノートお抱えのメンバーなので表向きはメンバーの名前を出せなかったにもかかわらず、
ジャケットを見ればブルーノート・セッションと同等内容であることは一目瞭然。でも、聴き終えた後には物足りなさが残る。

メンバーの演奏はいつも通り溌剌としていて、勢いもある。典型的なハードバップスタイルだし、ドナルド・バードもモブレーもよく鳴っている。
名曲 "Nica's Dream" も入っていて、ちゃんとゴルソン・アレンジで演奏している。この曲でのモブレーの長尺のソロは極めて秀逸で、彼の良さが
よく出ている。ホレス・シルヴァーのソロも素晴らしい。シルヴァー、ワトキンス、ブレイキーの3人の演奏はこの時代の1つのモデルケースと言える
演奏で、まあ、完璧だ。これ以上の演奏は望めないだろう。

そうやって個々の要素を見ていけば満点なのに、なぜか、物足りない。それが不思議でツラツラと考えていくと、いくつかの欠点が見えてくる。
まず、コロンビアの優等生的な音場感と典型的なハードバップ・スタイルとのミス・マッチだ。無菌室のような、塵一つないショーウィンドウのような
清潔な空間で鳴る紫煙漂うハードバップはどことなく居心地の悪さを感じる。この録音は極めて良好だけど、この音楽のタイプにはあまり合わない。

もう1つは、ここで披露される音楽があまりにも紋切り型だということだろう。定規で採寸されたかのようなスタイルがスリル感を削いでいる。
メンバーの演奏も寸分たがわぬイメージ通りの演奏で、絵に描いたような予定調和な世界。聴く前に抱くイメージを音楽を聴きながら後追いで
確認し続けるような作業になることの退屈さ。美しく完成された造形がもたらす行き止まりの閉塞感、みたいなものをどうしても感じてしまう。

そこまで突き詰めて考えなくても、聴いた時に直感的に全身で感じる痺れるような良さみたいなものが希薄であることは間違いない。これだけの
メンツが揃いながらも名盤の列に入れなかったのは、それなりの理由があるということだと思う。

尤も、これはマニア受けするレコードなので、そういう意味では有難みのある存在かもしれない。メンツの良さ、コロンビアの優秀なモノづくり、
メジャーレーベルで聴ける良質なハードバップは意外と少ないので、存在感はそれなりにある。ジャズはマイナーな音楽だったんだなということが
改めてよくわかる。

コメント
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