Paul Bley / Introducing ( 米 Debut DLP-7 )
既存のレコード産業に不満があったチャールズ・ミンガスが妻とマックス・ローチと3人で立ち上げたこのレーベルは、その名の通り、将来有望な新人が世に出るのを
支援するという極めて真っ当な目的でスタートした。 その後の活動を見ても明らかな通り、ミンガスは中々の事業家だと思う。 優秀なブレーンさえいれば、
起業家としても成功したかもしれない。 このレーベルで"デビュー"を飾った面々にはケニー・ドーハム、ハンク・モブレー、テオ・マセロなど重要人物の
名前が並んでいる。そしてカナダからN.Yに来ていたポール・ブレイもここでレコード・デビューを飾っている。ミンガスが自らベースを弾き、アート・
ブレイキーも招いている。
5歳の時にヴァイオリンを始め、11歳でモントリオールの音楽院の学位を取るような早熟だったらしいが、その頃からベイシーやウディ・ハーマンのレコードを
聴きながらジャズ・ピアノも弾き始めており、早くからジャズを志向していた。 その成果がわかる内容で、その後の活動ぶりが信じられないような純正統派な
バップ・ピアノ・トリオなのが面白い。 如何にも白人の弾くピアノで、いわゆるジャズのフィーリングは希薄であり、そこが当時は新しかったのかもしれない。
"Split Kick" がとてもこなれた感じになっているので、この人もホレス・シルヴァーを懸命にコピーしていたクチかもしれない。
裏ジャケットのライナー・ノートにはこの人の風貌がジャズ・ミュージシャンらしくない(大学教授のようなクルー・カット)ことが色々書かれているが、
彼が60年代以降どういうファッションになっていくのかを知っている我々の眼から見ればこの記述は微笑ましい。 そして風貌の変容ぶり以上に、彼の音楽が
このアルバムの内容からは想像すらできないほど変わっていくのだから、芸術というのはわからないものだ。 そのスタート時点としてこれがある、というのを
知っておくのは重要なことだと思う。