Benny Golson / Gone With Golson ( 米 New Jazz NJLP 8235 )
冒頭の "Staccato Swing" が素晴らしい名曲で、3部作の中では1番人気がある。 作曲したのがゴルソンではなく、レイ・ブライアントだというのが
意外な感じがする。 Aメロのフレーズが如何にも管楽器奏者の発想っぽくて、ピアニストがこういうのを考えるのは珍しいと思う。
この曲のおかげで、このアルバムが一番音楽的に豊かな印象がある。 1つの名曲がアルバムの印象を決定付けるのはよくあることだが、これもその一例
だろう。 ただ、そのせいで他の演奏への関心が薄れてしまい、アルバム全体の美味さを味わうことを忘れてしまうという落とし穴にはまることもある。
このアルバムも演奏の白眉はB面冒頭の "Blues After Dark" であって、実際はここが重力の中心だと思う。
ベニー・ゴルソンがあれだけの名曲を産み出すことができたのは、この人のブルースへの深い共感がその下地になっているのだと思う。 彼のアルバムに
収録されたブルース形式の楽曲を聴いていると、そこから溢れ出て止まらない翳りのある薄暗いムードが他のアーティストたちのものとは異質であるのが
よくわかる。 彼がブルースから汲み取ってくる何かが澱のように彼の中に溜まっていき、やがてそれが発酵して例えば "Whisper Not" という曲の核が
出来上がる、というような感じだったのではないか。 そんなことを考えながら聴いていくと、このアルバムはもっと愉しめる。
バックを務めるのは、レイ・ブライアント、トミー・ブライアント、アル・ヘアウッド。 ベースとドラムが他の2作と比べるとやはり大人しい演奏なので、
このアルバムが一番演奏が柔らかくマイルド。 それが一番音楽的にわかりやすいという印象を作り上げている。 こうして注意深く聴き比べていくと、
グループのメンバー構成が音楽に与える影響の大きさという当たり前のことを改めて実感することができる。 そして、そういう違いをもすべて覆い包む
ようなゴルソン・ハーモニーの重層感が音楽を何と豊かなものにしていることか。 ありふれたハードバップセッションとは根本のところが違う。
最後に、このレコードの音質は3部作の中では音像のフォーカスがやや甘く、他の2作と比べるといささかモヤッとした感じがする。 ただ、その印象が
マスタリングのせいなのか、バックのトリオの演奏が弱めのせいなのかは判然としない。 音圧もごく微妙に落ちるような気がするけれど、それも
同様の理由ではっきりとはわからない。
今日の夜のブルーノート東京での公演はワンホーンなのでゴルソン・ハーモニーの妙なる響きを味わうことはできないけれど、彼がこれまで作り上げて
きた音楽の重みを感じることができるだろう。 愉しみである。