廃盤蒐集をやめるための甘美な方法

一度やめると、その後は楽になります。

今年の収穫の1枚

2022年12月28日 | Jazz LP (Prestige)

Teddy Charles / Evolution  ( 米 Prestige LP 7078 )


自分の中での今年の収穫の1枚はこれだった。40年ジャズを聴いているが、ちゃんと聴いたのはこれが初めてだった。主要なジャズのレコードは
あらかた聴いてしまった、などと穿ったことを普段から言っているが、こうして間隙を縫って初めて聴くレコードというのは襲ってくる。
特に目当てもなくパタパタしている時にまるで新品のようなあまりにもきれいなものが出てきたので、それだけの理由で試聴してみたら、
これが試聴機の前でのけ反ることになった。まだこんな経験ができるんだなあと自分でも驚いた。

このレコードには1953年の西海岸での録音と1955年の東海岸での録音が収められている。53年にロサンゼルスに滞在していた時にレーベルを興して
間もないボブ・ワインストックに請われて現地ミュージシャンと録音したものはさほど面白いわけではないが、55年のヴァン・ゲルダー・スタジオで
録音されたJ.R.モンテローズ、ミンガスとのワン・ホーン・セッションにガツンとやられたのだ。

ここでのミンガスとの共演が縁で、半年後にDebutレーベルでマイルスの "Blue Moods" が作られる。あのアルバムのまったくマイルスらしくない
音楽の雰囲気はミンガスの依頼でテディー・チャールズが音楽監督をしたからだが、あのムードと共通するものがこのアルバムにもある。

モンテローズはテナー奏者としては一流とは言えないが、このアルバムではそれがよかった。音楽全体の暗く冷たいムードをぶち壊すことなく、
ひっそりと付けるオブリガートが非常に効果的。短いソロもテナーらしい魅力的な音色を最大限に効かせて音楽を邪魔しない。この絡み具合が
何ともいい塩梅なのだ。バリバリと吹くだけがジャズではない、とでも言いたげに、テディー・チャールズの世界観に沿った演奏をする。
よく聴いてると所々スタン・ゲッツがやりそうな演奏にも思える瞬間もあったりして、たどたどしいながらも強く印象に残る。

一聴してすぐにミンガスとわかるベースの音色がリズムをリードする中で生まれる音楽の空間は、ヴァン・ゲルダーの冷たく濡れたような音場感
の後押しもあって、誰の心の中にもあるであろう暗く静かな心象風景を見ているような気分になる。これはとてもいいアルバムだと思った。



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