Walter Benton / Out Of This World ( Jazzland JLP 28 )
こんなにもマイルドで素直で上質なハードバップのレコードは貴重な存在だと思いますが、本当に不思議なくらい知名度が低いままのレコードです。
アメリカのみならず、世界各国のマイナーで誰も知らなかったようなレコードが次から次へと陽の目を見ていくのに、一体なぜでしょう?
鳴り物入りで売り出し中だったまだ無名のフレディー・ハバードをフロントの片翼に置き、マイルスのリズムセクションを迎えるという信じられないような
布陣の中で、ベントンは非常に伸びやかでシックな音色でなめらかにアドリブラインを紡いでいく。 これが非常にツボを抑えた上手い組み立て方で、
技術的にも感性的にも素晴らしいものを強く感じます。 若いフレディは例によってバリバリと大きな音で口火を切りますが、ベントンの落ち着いた様は
その派手さといいコントラストになっています。 そして、当時の最高のピアノトリオの1つだったウィントン・ケリーのトリオが全体を支えて音楽を
前へ前へと進めていく。 これは素晴らしい作品です。
このアルバムは1960年9月にニューヨークで録音されていますが、この前後にベントンはサイドマンとして結構いろんなレコーディングに参加しています。
ただ、そのどれもが同じように地味な作品で、いわゆるコレクターじゃなきゃ手に取らないようなレコードばかりだし、本人のリーダー作もおそらく
この1枚だけのはずです。 クリフォード・ブラウンとも縁のあった人でもあるし、もう少し褒められてもいいんじゃないかと思いますが、唯一のリーダー
アルバムがジャズランドというこれまた幸薄いレーベルだったというのもとことんツイていなくて、これには心底同情してしまいます。
ブラウニーがクインテットを作る時にマックス・ローチがハロルド・ランドとこのベントンの2人を連れてきてどちらかを選べと言うので、仕方なく2人に
演奏をさせてみて、迷いに迷ってハロルド・ランドを選んだわけですが、まだ若かったブラウニーは人を見る目がなかったんじゃないかと思います。
レコードで聴く限りでは、どう考えてもベントンのほうがいいテナーを吹くからです。 こういうところでも運のない人だったんだなあと思います。
ウイントン・ケリーは他人リーダーになると、遠慮気味に演奏することがよくあります。 ジャズランドでもそこそこサイドマンとして参加してますが、大抵地味目のような気がします。
ジャズ批評に引っかかってたんですか、知りませんでした。
でも、テナーサックス特集とかハードバップ特集みたいなカテゴライズだと、この盤は中々そこへ参集するのは難しいかもしれません。
ギンギンギラギラのハードバップという訳でもないし、テナーブリブリでもないし。 西海岸の人なのに東海岸のジャズをやってるし、と定型のカテゴリーには収まらない内容です。
雑誌なので仕方ないのでしょうが、そういう単純化されたカテゴライズというものは、大事なものを切り捨ててしまう危険性を孕んでいるように思います。
確かに布陣としてはこれ以上望むべくもないもので、リーダーであるwalter bentonが一番知名度が低いという条件下で音楽は展開しています。
当時、マイルスバンドのリズムセクションとして既に名の通った3人と、売出し中とあるハバード(Goin' Upの前、Open Sesameの後)と当のベントンがフロント。
7曲中、挟まれた5曲がベントンの作曲で意欲的ですし、ラストのラバーマンは落ち着き払った吹奏が魅力的で、チェンバースの粒立ちの良いベースも効果的です。惜しむらくはケリーのソロパートが控えめで、もう一つ発奮し「弾け」でもしていたら記憶に残るディスクに成り得たのかもしれませんね。
過去のジャズ批評誌では、ウィントンケリー特集では外され、かつてのハードバップ特集で辛うじて取り上げられている程度の認識でこれは惜しいことです。