Bill Evans / What's New ( 独 Verve V6-8777 )
ユニオンのエサ箱にはよく国籍違いや版違いが転がっているので、財布の中に小銭が残っていて、且つ気が向いたら拾ってきて、聴き比べを
楽しんでいる。安レコだし、まあいいじゃん、という感じ。このアルバムも先日独盤が転がっていたので、拾っておいた。
オリジナルは米盤だけど、製品としての品質は元々イマイチで、ジャケットも盤も粗雑で質感が悪い。ただ、時代背景を考えると仕方ないよな、と
諦めている訳だけど、独盤はさすがの品質の高さだ。ジャケットはコーティングだし、盤のプレス品質も米盤よりも高い。この品質に匹敵するのは
当時の日本のペラジャケ盤だけである。ドイツ、日本の量産品に関するモノづくりは他を圧倒している。
聴き比べて音質に違いがあるのはあまりに明白だ。とにかくノイズを一切拾うことが無く、クリーン・ルームで演奏されたかのようなクリアな
音場感に感心する。これは盤の材質や溝の切り方の丁寧さがそのまま音質に反映されている感じだと思う。
モレルのシンバルの音はとてもきれいで繊細な金属音で、これが美しい。エヴァンスのピアノの音も違う。例えるなら、丁寧に磨かれた琥珀の
工芸品のような感じ、とでも言えばいいか。エヴァンスのピアノの本来の音はこちらではないか、という気がする。
全体的には他の独盤と同様、音圧は低めで、繊細な表情をしているのは変わらない。楽器の音が違うから、マスタリングも変わっていると思う。
他方、米盤は音圧が圧倒的に高く、演奏に覇気が感じられる。楽器毎の音の粒度は粗いものの、疾走感では明らかに勝っている。
エヴァンスのピアノの音はモノラル盤のような音で、ピアノ本来の美しさは感じられないが、ガツンと音が飛んでくる感じがある。
こういう違いがある中で、このアルバムに何を求めるかでどちらを好むかが分かれるだろう。ビル・エヴァンスのピアノのファンで、そこを軸に
聴きたいということであれば、独盤のほうがいいかもしれない。スタイグが牽引する全体の高揚感を味わいたいのなら、米盤が向いている。
同じ一つの演奏であっても、音場感の違いで演奏から受ける印象がこんなにも変わるのだから、この遊びは止められない。私自身はこの作品の
価値はスタイグの暴れっぷりにあると思うので、米盤の方が自分の価値観には合うけれど、独盤が展開する新しい風景にも心奪われた。
どちらで聴いても、好きな演奏であることには変わりはない。