Wynton Marsalis / Black Codes ( From the Underground ) ( 米 Columbia FC 400009 )
ウィントン・マルサリスの音楽が総じてつまらないのは間違いないけれど、そんな中でこれは一番まともな出来で、私もこれは割とよく聴く。
1985年1月の録音で、なんともう30年以上も前の演奏なのだから、時の流れの速さには驚いてしまう。
彼が矢継ぎ早に作品を発表していた当時、「ウィントン・マルサリスは果たしてホンモノなのか?」という議論があった。 今となっては懐かしい
「新伝承派」という言葉がその疑問を更に助長する形で話は進んでいた。 不思議なもので、ウィントンの音楽には確かに聴いた人に自然と
そういう疑念を抱かせるようなところがあった。 でも、結局のところ、当時はその議論に対する結論は出ていなかったように思う。
そして30年の月日が流れた現在、このアルバムを聴きながら思うのは、結局、その後ウィントンの音楽を脅かす存在は現れなかったし、
誰も彼がニセモノだったと証明することができなかったよな、ということだった。
現時点、そして過去10年くらいの主流派の音楽を振り返ってみても、この "Black Codes" そっくりの音楽ばかりで溢れかえっているし、
始末の悪いことにそれらはこのアルバムよりも明らかにグレードが低いのだ。 その構図は60年代のマイルス・バンドとそれを取り囲む
全体の状況と酷似している。 でも、それはウィントンが傑出していたと騒ぐよりは、対抗馬を立てられなかった業界の深刻な人財不足を
嘆くべき話なのかもしれない。
ウィントンはこの時23歳で、ブランフォードもケニー・カークランドもジェフ・ワッツらバンド・メンバーもほぼ同世代。 演奏力の高さは
他を寄せ付けない。 バンドとしての纏まりも完璧で、勢いがあり、全体が影のある物憂げな雰囲気で統一されていて、これは最後まで
一気に聴かされる傑作だろうと思う。