Miles Davis Quintet / Steamin' ( Prestige 7200 )
マイルスのマラソンセッションの中で1番好きなのは、これです。
残っていた契約ノルマを消化するために、というのが一般的に言われることですが、そんな単純な話ではないような気がします。
マイルスの中にはこれまでやってきたことを一旦総括して、同時にこれからはこのバンドでやっていくんだぞと宣言する気持ちが
あったのではないでしょうか。
プレスティッジでの録音は様々な大物たちが都度集まってマイルスが総監督をするという伝統的なセッション形式でしたが、それでは飽き足らず
すぐに次を見越して、自分の音楽をやるために自己のバンドを持つ決心をします。 このマラソンセッションで彼がやりたかったのは、
これまで自分がセッションという形でやってきたビ・バップやハード・バップの曲を自分が作った新しいバンドでやったらどうなるか、という
実証実験だったんだろうと思います。 そのために、契約ノルマをこなすというこの機会を上手く利用しただけなんでしょう。
"Salt Peanuts" をやったのは、俺たちはパーカーのバンドを超えることができるはずだ、という強い想いがあったからに決まっている。
見かけ上は普通のハード・バップで目新しいことは何もなくても、マイルスの内面では間違いなく「実験」という意識があって、
しかもそれは自分にしかわからない冒険なんだという自覚もあったに違いないと思います。
そういう彼の想いが1番よくわかるのが、このアルバムだからです。
それに、ここに収められた "Something I Dreamed Last Night" はマラソンセッションの中では最も感動的で素晴らしいバラードです。
これが聴けるだけでも、このアルバムの価値は不変だろうと思います。