廃盤蒐集をやめるための甘美な方法

一度やめると、その後は楽になります。

ハル・マクシックが語る、パーカーとギル・エヴァンスの共演

2019年02月24日 | Jazz LP (Verve)

Charlie Parker / The Magnificent   ( 米 Clef MG C-646 )


昨日ハル・マクシックのことを色々調べている時に、彼自身のことについては何の収穫もなかったけれど、それとは別に面白い話を知ることができたので、
備忘録として簡単に残しておこうと思う。 マクシックという人はこれまでまともに語られてこなかった人だったのだということが今回よくわかった。
このままだといずれは忘れられてしまうことになるのかもしれない。 ジャズ全盛期に生きたミュージシャンの常として、彼もパーカーと親交があった。 
その彼が語るパーカーにまつわる話が面白いのである。

パーカーと組んで作った "ウィズ・ストリングス" がアメリカでヒットしたのに気を良くしたノーマン・グランツは2匹目のドジョウを狙って、今度はコーラス隊を
バックにしたレコーディングを企画した。 当時はビリー・ホリデイが40年代にデッカ録音で使ったような伝統的なコーラス隊は既に流行遅れで廃れていたので、
もっとヒップでイケてるヴォーカリース・スタイルのコーラス隊を使おうということになり、デイヴ・ランバートと彼が集めた "デイヴ・ランバート・シンガーズ" を
スタジオに呼んだ。 そして、彼らのバックの演奏には小編成のアンサンブルを使い、そのスコアと指揮をギル・エヴァンスに頼み、ベースにはミンガス、
ドラムにはマックス・ローチを使った。 ギルはバスーン、クラリネット、フレンチ・ホルン、フルート、オーボエを使い、このクラリネットにハル・マクシックを
充てた。 この時の録音風景について、マクシックが非常に貴重な回想をしている。

録音はニューヨーク40番街のブライアント公園を横切ったところに建つビルの4階にあったフルトン・スタジオで行われた。 30フィートの高い天井を持つ
巨大なスタジオで、防音のために天上から床までの壁一面に分厚いカーテンが敷かれ、レコーディング・ブースは巨大なガラス張りになっていた。
そこに大勢の楽器演奏者たちが片方の側に、10人を超えるシンガーズたちがもう片方の側に配置され、パーカーは楽器奏者側の前に立って演奏した。 
この時録音されたのは、"In The Still Of The Night"、"Old Folks"、"If I Love Again" の3曲で、管楽アンサンブルを指揮するギル・エヴァンスや
ヴォーカル隊を指揮するデイヴ・ランバートもスタジオに入っていた。

録音が始まると2つの問題が浮上した。 1つ目はランバートの書いたスコアが難し過ぎて、ヴォーカル隊が上手く歌えずレコーディングが混乱したことだ。
ランバートは "L,H&R" でもお馴染みのヴォーカリーズの先駆者の1人で3~4人程度のヴォーカル・アレンジは得意だったが、10人を超える規模のアレンジには
慣れておらず、この時用意したスコアが軽快に歌うには重過ぎてヴォーカル隊が上手く歌えず、テイク数を大幅に重ねることになってしまった。

もう1つは、マックス・ローチがパーカーが指示したリズムテンポを無視して、レコーディングを邪魔したことだ。 プライドの高い彼はこういうコマーシャルな
レコーディングに最初から不満で、テイク1ではわざと速いテンポでドラムを叩き、気の毒なヴォーカル隊を大混乱に陥らせた。 この時、パーカーだけは
悠然とした態度で難なく演奏し、ギル・エヴァンスは終始落ち着いていたという。 ギルはクロード・ソーンヒル時代は録音が終わるとブースから人を追い出して
1人こもり、床に仰向けに寝転んでプレイバックのチェックをするのが常だったが、このパーカーとの録音ではそういう振舞いはしなかったそうだ。

これらの想定外のドタバタが起こったせいでレコーディングは大幅に長引き、グランツは予算を大幅に超えるお金を使うことになってしまった。 
当時録音テープは非常に高価で、テイク数を重ねれば重ねるほど大金が飛んで行ったわけだ。 そういう様子をハル・マクシックは冷静に見ていて、
現場にいた者だけが語り得る貴重な情報としてこうして語り継いでくれている。

私はパーカーとギル・エヴァンスが一緒にレコーディングしていたなんて初めて知ったし、普通なら我々には知りえない舞台裏の秘密が生々しく目の前に
蘇るようなこういう話には心が躍る。 掲載のアルバムに収録された2曲のイントロで聴けるクラリネットがマクシックの演奏だと思うと今までとは違う
印象に変わってくるし、昔からこのバックのヴォーカル隊の歌は稚拙でぎこちないなと思っていたのが、実はそういうことだったんだということがわかると、
これはこれで微笑ましい気持ちで聴けるようになるではないか。

それにしても、マックス・ローチって野郎はつくづくイヤなヤツである。 この男、知れば知るほど、ますます嫌いになっていくなあ。


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3 コメント

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Unknown (Unknown)
2019-02-26 08:42:31
興味深いエピソードありがとうございます。
マックスローチについては同感ですねえ。ブッカーリトルを完全蒐集するために集めましたが、演奏の雰囲気を台無しにする叩きまくりがあって、イヤになってしまいました。彼のリーダー盤で良いと感じたのはPercussion Bitter Sweetくらいしか思いつきません。それもRVGの音にかなり助けられた感じですけど。
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Unknown (cotton club)
2019-02-26 08:44:30
名前を入れ忘れました。cotton clubです。
返信する
Unknown (ルネ)
2019-02-26 10:09:29
なんか、もう、やることがガキなんですよね。 呆れてモノも言えません。
でも、この人はいろんなアルバムに参加しまくっているので、聴かずにやり過ごす訳にもいかず、です。
当時は、「大物」だったんですかねえ??
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