廃盤蒐集をやめるための甘美な方法

一度やめると、その後は楽になります。

幸せな気分を運んでくるポップ・フュージョン

2021年02月07日 | Jazz CD

Bob James / Foxie  ( 日本ビクター VICJ-61517 )


フュージョンのアルバムはもはや10枚も手元には残っていないけれど、長年のレコード・CD裁判で常に勝ち残ってきた1枚。
もう40年も前の録音ということに改めて驚くしかないけれど、こればかりは好きなんだからしかたない。

これ以上はないであろうポップなわかりやすさ、且つおそろしくレベルの高い演奏力が同居する内容で、まあすごい音楽である。
ボブ・ジェームスのフュージョン・アルバムはおそらくほとんどすべて聴いたと思うけれど、私にはこれを超える作品はなかった。

冒頭の "Ludwig" はその名の通り、ベートーヴェンの第九、第2楽章の変奏だけど、これがいい。まさに才気爆発の感がある。
想像力の力強い翼が奮い立ったような展開で、それを支えるスティーヴ・ガッドのドラムが最高の出来。彼はこの頃がピークだった。
サントリーのCF曲として使われた "Marco Polo" の明るいムードで終わるのもいい。

この人はフリー・ジャズ・ピアニストとしてデビューした訳で、この振れ幅の大きさは一体何なの?という感じだけど、
よくよく考えると、ESPレーベルの音楽が出始めた頃はこれが当時の最先端の音楽だったし、80年代の音楽マーケットでの
フュージョンの勢いの凄さときたら現在からは想像も付かないほどのものだった。つまり、ボブ・ジェームスという人は、
そういう時代の最先端の音楽を見つけるといち早くそこに飛び込み、その中で最良の音楽を生み出すことに生き甲斐を感じた人
だったのかもしれない。アングラだの売れセンだの、そういうことはきっとどうでもよかったんじゃないだろうか。

ハード・バップがもう2度と戻ってこないのと同じように、こういうポップ・フュージョンももう戻ってくることは決してないだろう。
でも、その時代に生きた人にとってはそれが青春の音楽であり、その気持ちが変わることはない。
きっと、それが1番重要なことで、何よりも大切なことなんだろうと思う。

今では80年代という世相へのノスタルジーと、そこにあった独特の雰囲気がいろんな分野で再評価されているけれど、
ボブ・ジェームスのこの音楽もあの時代にしか生まれることのなかったユニークな音楽。
とにかく明るく、わかりやすくて、聴いていると無条件に幸せな気分になれるのだ。


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