Mark Murphy / The Artistry of Mark Murphy ( 日 KING RECORD K26P 6242 )
最も好きなジャズシンガーの1人であるマーク・マーフィーの作品の中でも、最も好きなアルバムの1つ。 ミューズ原盤だけど、アメリカ盤のジャケットは
ひどいデザインで持つ気にはなれず、この国内盤で聴いている。 こちらのほうがジャケットや盤の作りが丁寧で、日本盤をバカにしてはいけない良い見本だ。
30年来の愛聴盤で、思い入れの強さが他の作品とはちょっとばかし違う。
この人の素晴らしさは、その音程の正確さと音感の良さ。 この一言に尽きる。 ジャズ界では他の追従を許さない。 音程の正確さというのは音楽技法の
中では最も重要な要素の1つで、ジャズ・シンガーの世界ではエラ・フィッツジェラルドやバディ・グレコが秀でているけれど、マーク・マーフィーの場合は
ちょっと正確さの次元が違う。 楽器は上手い下手が明確にわかるからごまかしようがないけど、ボーカルの世界は雰囲気だけ良ければ許されるような
いい加減なところがあって、そういう中でマーク・マーフィーのような本物は一般的にはちょっと煙たがれる存在かもしれない。
トム・ハレルやジョージ・ムラーツら一流どころが名を連ねるバックの演奏も素晴らしく、音楽全体がセピア調の抒情的でせつない雰囲気でまとめられている。
ギターだけをバックに歌う "I Remenber Clifford" はこの曲のヴォーカライズとしては最高の出来だし、ガーシュインの "Long Ago And Far Away"と
ジェームス・テイラーの "Long Ago And Far Away" をメドレーで繋いでしまうなど、各楽曲のクオリティーの高さは圧倒的だ。
昔からジャズ本では "Rah" や "Midnight Mood" ばかりが判で押したように取り上げられるけれど、この人の本懐はミューズ時代にある。 ジャズを
懐古趣味のものとしてではなく、同時代の音楽としてリアレンジして自分だけの音楽に仕立てて作品を作り続けた。 そのおかげで、ダイアナ・クラールや
ノラ・ジョーンズのような人たちが活躍できる場ができたんじゃないだろうか。