John Coltrane / Africa / Brass ( 米 Impulse! A-6 )
インパルスでの第1作目であるこのアルバムを聴くと、コルトレーンが如何にマイルスから多くを学び、それを糧として成長したかがよくわかる。
アトランティックから移籍するにあたり、ラージ・アンサンブルを使ってレコーディングしたいこと、そのアレンジをギル・エヴァンスに頼みたい
こと、録音はヴァン・ゲルダー・スタジオでやることなど、まるでマイルスのやったことそのままをインパルスに要求している。
結局、アンサンブルのスコアはドルフィーとマッコイへと変更されたが、これが非常にうまくいった。ドルフィーはコルトレーンの意向を汲んで、
楽器の構成やアンサンブルの演奏の間引き方を徹底的にギル・エヴァンス流にした。コルトレーンの演奏を邪魔しないようバックにテナーは入れず、
サックスはバリトン1本と自身のアルトのみとし、フレンチ・ホルン、チューバ、ユーフォニウムで音の壁を作った。そして、アンサンブルには
最小限の出番しか与えず、メインはコルトレーン・カルテットの演奏を置いた。ドルフィーは頭のいい、賢い人だったのだ。
このアルバムと後にリリースされたVol.2は、インパルスの作品群の中では最も音楽的に優れた作品の1つだと思う。急激な発展が始まる途上で、
その予感は十分に孕みながらも普通のジャズの感覚もしっかりと残っている時期で、絶妙なバランスの上に成り立っている。アフリカという
キーワードやブラス・アンサンブルが入っていることから敬遠されるかもしれないが、それらに惑わされる必要はどこにもない。普通のアメリカ人
であるコルトレーンにとって、アフリカという言葉は音楽に異国情緒を与える単なる修辞の意味合いだっただけだろうし、バックのアンサンブルも
音楽に色彩をもたらそうとする手段だったに過ぎないと思う。難解なコルトレーンなど、どこにもいない。
とにかく、かっこいい、の一言に尽きる。最初から最後まで、ジャズという音楽が本来持っている美学のようなもので貫かれている。
生真面目で真剣な音楽で、このひたむきさに惹かれる。もし、コルトレーンの音楽に何か精神的なものを感じることがあるのだとすれば、
それは思想的なものなどではなく、この純粋なひたむきさしかないと思う。
このアルバムの中では、最後に置かれた "Blues Minor" が一番好きだ。こんなにかっこいいジャズは、そうそうないではないか。
この人は生涯を通じて珍しく駄作のない人だと思うけれど、インパルス時代のアルバムはやはり別格的にいいと思う。