廃盤蒐集をやめるための甘美な方法

一度やめると、その後は楽になります。

ホールに化けたヴィレッジ・ヴァンガード

2020年09月10日 | Jazz LP (Impuise!)

John Coltrane / The Other Village Vanguard Tapes  ( 米 ABC-Impulse AS-9325 )


1961年11月1~5日、ドルフィーと共にヴィレッジ・ヴァンガードに出演した記録はいろんな形でリリースされていて、今では完全版も
あるから、内容は広く知られている。今となっては、伝説の4日間ということだろう。新しい扉を開けて大きく飛躍した音楽が展開する
折り紙付きの演奏なので、どのフォーマットで聴いても感銘を受けるが、個人的にはこのアルバムに一番愛着がある。

コルトレーンの死後、未発表曲集として1977年にリリースされたアルバムだが、このアルバムの音場感が非常に独特だからだ。
ヴァンガードのライヴ録音と言えば、デッドな音場で演奏者が観客の近くにいるような雰囲気が売りだが、このアルバムの音場感は
まったく違う。まるでどこかの大きなホールで演奏されたような音場感なのだ。

盤面にはKENDUN刻印があるのでロスのKendun Recorders Sutdioがカッティングしたということ。ジャズでは全く取り上げられないが
ロックの世界では有名な独立系のマスタリング・スタジオだから、プレス品質はとてもいい。録音自体はヴァン・ゲルダーが録ったが、
このアルバムのマスタリングは別の世界観で行われている。そのおかげで、暑苦しいと敬遠されがちなコルトレーンの音楽がここでは
違った表情を見せている。そこがいいのだ。

ホール・トーンの中で響くコルトレーンのサックスは雄大で、どこか遠くで鳴っている雷鳴のように聴こえる。それは何らかの予兆を
孕んでいて、我々は常にそれに耳を傾けることになるだろう。

何もアドリブの凄さや勢いの激しさばかりに気を取られる必要はない。空からゆっくりと降ってくるような望郷的なサウンドに
身を委ねるだけでも十分ではないか、と思うのだ。いろんな聴き方があっていい。

ジャケット・デザインも秀逸。テナー・サックス奏者は、この角度から見る姿が一番カッコいい。


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