廃盤蒐集をやめるための甘美な方法

一度やめると、その後は楽になります。

ジョージ・ウォーリントンの賢い買い方

2019年07月27日 | Jazz LP (Verve)

George Wallington / The Workshop Of The George Wallington Trio  ( 米 Norgran MG N-24 )


レコードの買い方にはいくつかパターンがあって、1つはあるアルバムが気に入ってそのアーティストのリーダー作を順番に買っていくパターン。
"Waltz For Debby" が好きになって、エヴァンスのレコードを片っ端から買っていくというやり方である。 もう1つは名盤100選や単発レビューを
頼りにランダムに買っていくパターン。 サキコロを買って、カインド・オブ・ブルーを買って、クール・ストラッティンを買って、というタイプ。
大抵の場合この2つはミックスされてグシャグシャな買い方になっていくけれど、大まかに言うとそういうパターンがある。

このジョージ・ウォーリントンのアルバムは、前者の買い方でしか決して引っ掛からないタイプのものだろう。 カフェ・ボヘミアのライヴ盤を知って、
ウォーリントン名義のアルバムを手繰っていく中で網に掛かってきて初めて聴くことになる人がほとんどのはず。 なぜなら、このアルバムが名盤と
して評価されたことはないからで、後者の買い方ではおそらく出会うことなく終わってしまう。 だからそうならないよう、ここに取り上げておく。

ウォーリントンのアルバムと言えばそのほとんどがコレクターズ・アイテム化していて、そういう切り口でしか語られることがない。 つまり、発売当時
ろくに売れなかったせいでレコードの数が少ないということだが、それに加えて彼のピアノそのものが評価されることはなく、せいぜいバンドの中の
管楽器奏者推しで話は終わってしまうの関の山だ。

でも、このアルバムを聴くと2管バンドでの彼のピアノとはまるで別人のような演奏に驚くことになる。 バド・パウエルのスタイルを消化した非常に
正統派のバップ系で、且つその上に清潔で上質なベールが掛かった個性があって、これが素晴らしい出来だ。 打鍵もしっかりとしているので音の
粒立ちが良く、ピアノが大きな音で鳴っている。 バラードで見せる透明感漂う抒情性は同時代の他のピアニストには見られない特質だし、アップ
テンポの曲での卓越したリズム感と途切れることのない長いフレージングは演奏力の高さを証明している。 冒頭の "Before Dawn" のピアノの音の
深みと響きがこのアルバムが別格の内容であることを保証してくれる。 古いノーグランの10インチの音は時代感漂うものだけど、それでもその凄みは
しっかりとわかるから、当時生で聴いた人たちはさぞかし驚いただろう。

彼のトリオ演奏は他レーベルでも聴けるが、例えばサヴォイのアルバムは内容が非常につまらないし音質も冴えなくて楽しめない。 この人の難しさは
そういうところにあって、作品全体に通底する何かが欠けている。 だからウォーリントンは前者のアプローチでは無駄な買い物をすることになる。 
よほどの裕福な人でない限り、ジョージ・ウォーリントンのアルバムは是々非々で選択するのがいい。

コメント
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