Barbara Carroll / S/T ( 米 Atlantic LP-132 )
レコード漁りの醍醐味はパタパタとレコードをめくって探すことそのものにある。 その結果買うことになっても、それは副次的な産物かもしれない。
記憶の中に残っているのは買ったレコードのことよりも、店に行く途中に見た街の風景だったり、店から出て立ち寄った茶店でタバコを吸いながら
心地好い疲労感の中でぼんやりと考えたこととか、壁に掛かっている高額なレコードを指を咥えて眺めていたこととか、そういうことばかりだ。
買ったレコードのことより、買わなかったレコードのことの方をよく憶えていたりする。
このバーバラ・キャロルのレコードも、会計を済ませて店を出ようとした時に出口付近に無造作にダンボール箱が置かれているのに気が付いて、何気なく
その中をパタパタとめくっていたら出てきた。 それ以外にもボロボロ出てきて10枚くらい拾い上げるハメになり、再度カウンターに戻って検盤して、
その中の半分を追加で買うことになった。 そういう何てことはない行為そのものの方ががしっかりと記憶に刻まれている。
やはり、バーバラ・キャロルのピアノには他の人にはない何かを感じる。 それが何なのかを説明するのは難しいけれど、そこには確かに何かがある。
それを求めて彼女のレコードを聴くという孤独な作業を繰り返しているけれど、それはそもそも音楽を聴くということの原点でもある。
彼女のレコードは、どこか私にそういうことをさせる力を持っている。
アトランティックの10インチを買ったのはずいぶん久し振りのことだけど、一般的な12インチの黒ラベルのレコードたちと比べると音の鮮度が比較に
ならないくらい良い。 あのストレスのたまるこもった感じがなく、まるで別レーベルのレコードを聴いているような感じがする。 カッティングの
鋭さが違うなあ、というイメージとでも言えばいいか。 そういう面でもうれしいレコードだった。