Cal Tjader / Cal Tjader Quartet ( 米 Fantasy 3-227 )
ヴィブラフォンの話になった時に、カル・ジェイダーの名前が出てくることはまず無い。 ルックスがジャズ・ミュージシャンとしての凄みに欠けるせい
かもしれないし、ファンタジー・レーベルが名門レーベルではないからなのかもしれない。 表面的なイメージだけが独り歩きして、アーティストや
作品自体の純粋な評価は置き去りになるのは世の常だとは言え、この有り様は気の毒を通り越してあまりに酷いんじゃないかと思う。
彼が奏でるフレーズは柔和でメロディアスで、趣味のいいセンスの良さを感じる。 シリンダーの響きもよく、ヴィブラフォン本来の愉楽に満ちている。
音数も過不足なく適切で、知情のバランスが取れているおかげで音楽は常に自然な表情をたたえている。 その上質な肌触りは常に心地よい。
このアルバムはヴィブラフォンとピアノトリオによるカルテットの演奏で、この人の実像が一番よくわかる内容だ。 スタンダードなどの穏やかな曲を
ヴィブラフォンの演奏で聴きたい時にはこれに勝るものはない、うってつけのアルバムだと思う。 バックのジェラルド・ウィギンス、ユージーン・ライト、
ビル・ダグラスのトリオも優雅で芳醇な演奏で、特にユージーンのベースは音が大きく録られていて聴感上も聴き応えがある。
60年代に入るとラテン音楽に傾倒するようになり、聴く人を選ぶようになっていくけれど、50年代はストレートなジャズをやっていて間口の広い音楽が
聴ける。 いい意味で軽快なサウンドだけど、決してサロン風に堕することはなく、しっかりと正統派のモダン・ジャズで実力は確かなものだった。
おまけにお財布にも優しいとくれば、これはもう聴くしかない。