廃盤蒐集をやめるための甘美な方法

一度やめると、その後は楽になります。

斜陽、諦観、So Sorry Please

2019年06月01日 | Jazz LP (Riverside)

Red Garland / Bright And Breezy  ( 米 Jazzland JLP 48 )


表舞台から姿を消す1年ほど前に録音されたしみじみと聴かせる演奏で、ガーランドのその頃の心境がにじみ出ているかのようだ。 演奏自体は明るく
元気はいいが、50年代の演奏とは少し違う雰囲気が漂う。 それはレーベルが変わったせいかもしれないし、バックの面子が違うせいかもしれない。
ただ、バラードでは極端にテンポを落とし、シングルノートを多用するなど、奏法自体にも変化がみられる。 それらを聴いていると、「斜陽」という
言葉が浮かんでくる。 

このアルバムはバド・パウエルの "So Sorry Please" で幕を閉じる。 これがパウエルそっくりの演奏で非常に驚かされる。 2つを聴き比べてみても
どちらがどちらの演奏なのかがわからないくらいよく似ている。 ガーランドはレコーディング・デビューした時には既に自分のスタイルが完成していて、
パウエルの影はどこにもちらつくことがなかった。 そういう稀代のスタイリストが、隠遁直前にまるでパロディのようにモダン・ジャズ・ピアノの開祖
そっくりに弾いてみせたのは、第一線から退く決意から出たジャズ界への愛嬌たっぷりの惜別の挨拶だったのではないか、とすら思えてくる。

そんな風に至る所で諦観の痕跡が見られるし、そこからくる切なさのようなものを感じ取ることができる。 それはごく微量で微かなものだけど、こちらも
年齢を重ねてくるとそういうものに自然と敏感になってくる。 若い頃に聴いた時は覇気のないつまらない演奏だと思っていたが、時間の経過が自分に
とっての音楽の価値を変化させていく。 人の数だけ音楽評はあると言われるけれど、実際は時間の流れの中でも評価は移ろいゆく。 作品の内容にうまく
感応するタイミングで聴くことが出来さえすれば、この世につまらない音楽なんて存在しないと思えるのかもしれない。


コメント
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