江国香織さんの『ちょうちんそで』を読みました。
久しぶりに触れた、“江国ワールド”、静かに明々とじんわり。
シンプルな文章で、人の心の動きを伝えるこの人の文体は
語りたがりで、理屈っぽい話が好きな人には「すかすか」と感じるみたいだけど
いや、技術的にはすごいことだよ、と思う。
語り手が何人も入れ替わり、実はあの人とこの人がつながって
たくさんの物語が現れる。
それぞれ日常生活には出てこない「過去」に身を委ねたり
ひっそりと居場所を求めたり、苦しんだり、怯えていたり。
実際、普通に生活しているように見えても
みんないろんなことを、抱えている。
この話の中心的な存在、雛子さんのように
少女時代を鮮明に覚えていることは、とても幸せ。
その記憶に生きることを「寂しさ」ととらえがちだけど
「豊かである」と思わせる力が、雛子さんにはある。
それが妄想だろうが、架空の人との会話であっても。
幼いころの記憶、なかでも自分が包まれていたもの、人、
どれも人を一生支え得る。
あるいは、一生苦しめるものかもしれないけれど
あるとないとでは、人生の深さが全然違うだろうな。
大事件は起きない、ふわふわ、シンプルな話だけど
濃くて質感のある物語は、さすがです。
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