salt&pepper days 

ともすれば、子どもとの時間に埋もれそうな日々。でもやりたいことは他にもいっぱい。刺激を求めて悪あがき中。

本の感想・ひだまりと冬空

2009-12-11 23:38:10 | 本・雑誌
文学者とか、大学の先生に対して
なんとなく恐れを感じてしまうのは
自分が不真面目な大学生だったからだと思うのだけど
この人の講義、受けてみたかったなあと思う人が
今になって何人かいます。

ああ、でもきっと居眠りするだろうな。
大学の大教室って、なんであんなに
空気がゆるーくて、気持ちがよかったんだろう。
ゼミ教室では、いつもビクビクしてたけど。

今回読んだ著者も
講義を受けてみたい1人に加わりました。

といっても、この方はもうとっくに
大学は退職されて、今は文筆家です。


『無口な友人』(池内紀・著 みすず書房)


前半は、好きな将棋のことや動物のこと、
身の回りの気になることや場所、
人との付き合い方について
温かく、ゆったりした語り口で綴られている。

「そっか、こういう生き方でいいんだなあ」
「こういう考え方でいいんだなあ」と
なんだか嬉しくなるような、ラクになるような。

といっても、自分の親世代の人で
これまでにドイツ文学者として
実績を残している人をつかまえて
「少年みたいなまなざしが、いいですー」とか
「なんだかポカポカしてきました」とは
とてもとても言いにくいのですが。

けれど、読み進むにつれ、空気が変わる。

あとがきや、背表紙の紹介にも書かれている通り
年を重ねてきた今(刊行は2003年)
少しずつ「死」を感じさせる内容が増えてきたという。

肉親、友人、恩師、ペットなど
もう会えなくなった人たちへの愛情と共に
自分のすべきこと、居場所への執着の薄れを感じ
どきりとさせられる。

本の前半は、ユーモラスで親しみやすい
お人柄を強く感じるけれど、後半にいくにつれ
穏やかな目の奥の、さめた部分が見え隠れして
突き放されたりもする。

たぶん、人を見る目は厳しい人。
人に対して厳しい、のではなく
諦観や許しを持てる人でもあるように感じる。

一番最後の「自死について」は
どうしてもすっきり読めない。

「死」についての、そのお考えは
わかりやすく、深く、理路整然としているだけに
そんなすっきり語らないでください、と。

たぶんこれについて討論したら
言い負かされる、というか、それは
私の中で細かいところを詰めきれてないせいだけど。

感情を否定し、押し殺すような
シビアな目線でひたすら死を見つめているような。
それは自然なことには思えない。

1冊の本の中で、ひだまりのような温かさと
ぐっと気温の落ちた、真夜中の砂漠を味わう。

けれど総合的な印象としては、小春日和、かな。



最新の画像もっと見る

コメントを投稿