玄倉川の岸辺

悪行に報いがあるとは限りませんが、愚行の報いから逃れるのは難しいようです

軽自動車には軽油だよねー。

2008年10月08日 | 光市母子殺害事件
もちろんそんなことをしてはいけない。

念のために言っておくと、私の知る限りすべての軽自動車は「ガソリンエンジン」を搭載している。軽油は「ディーゼルエンジン」用の燃料なので、ガソリンエンジンに入れると故障する。
たいていの人は「まさかそんなバカなことを」と思うだろうが、「軽自動車には軽油」を実行したドライバーが全国でトラブルを起こしている。原因はガソリンの値上がりとセルフ式スタンドの増加。

livedoor ニュース - ガソリン高騰でトラブル急増 セルフで軽油給油、エンスト
首都圏の一都三県で4月~6月に153件のトラブル
JAF本部はJ-CASTニュースの取材に、首都圏の一都三県で緊急調査したところ、07年4月~6月で153件のトラブルが見つかった、と明かした。07年に入って燃料の入れ違いによる救援依頼が急激に増えたことに疑問を持ち、トラブルのデータを分析したところ、こんな結果が出てきたのだという。トラブルの多くは、セルフ式のガソリンスタンドでガソリン車なのに軽油を入れてしまった、というものだそうだ。これを受けて、JAF愛知支部も東海4県と北陸3県でも調査を実施した結果、07年7月~9月の間に計232件発生していたことがわかった。

間違って軽油を入れた場合どうなるのか。「JAF Mate」07年11月号によると、エンジンの力が無くなり白煙を噴きエンスト。仮にガソリンと軽油を50%ずつ入れると約5キロメートルで走行不能になる。軽油100%では500メートルで止まってしまう。こうなると、整備工場やディーラーで軽油を抜き洗浄しなければならず、部品が壊れるケースもあるのだという。

では、なぜガソリンと軽油を間違ってしまうのか。JAF愛知支部は「ガソリンスタンドの店員や車の知識があるドライバーなら間違うことは通常ありえない」という。さらに、

「ガソリン価格が高騰していますから、できるだけ安いガソリンを買おうとセルフ店に行って、さらに、軽油の方が安いから軽油を入れる、という例があります。また、軽自動車だから軽油、と勘違いするドライバーもいるようです」
と説明した。

まったく困ったものである。
「運転するなら自分の乗ってる自動車の仕組みについて最低限の知識を持ってくれ」と思う。
そう、無知はトラブルの元なのである。
自分自身が損をするだけではなくて、公道の真ん中でエンストすれば事故や渋滞の原因となり社会全体の損失となる。本当に困るのだ。

「軽自動車に軽油」と同じくらい、いやそれ以上に私が「困ったものだ」と思うのが、先日広島地裁で判決が下った懲戒請求騒動である。
懲戒請求を煽った橋下弁護士も、煽られた請求者たちも「軽自動車に軽油」の同類だ。
自分の住んでいる社会の仕組み(司法制度の基本)を知らずに無茶をやる人がある程度いるのは仕方ないが、無茶を応援し、判決や社説でいさめられても聞き入れない人たちがびっくりするくらい多い。その点が「軽自動車に軽油」問題と違うところだ。

広島地裁の判決(要旨 判決文前半後半pdf)で明快に記されているとおり、光市母子殺害事件の弁護団に対して懲戒請求を煽った橋下弁護士の行為にはまったく正当性がない。広島地裁は「デタラメを広めて世間を煽った橋下弁護士は弁護士失格だ」と宣告したのに等しい。橋下弁護士自身も「原告の皆さん、光市母子殺害事件の弁護団の皆さん、大変ご迷惑をおかけして申し訳ありません」と謝罪し「私の法令解釈、表現の自由に対する考え方が間違っていたとの判断を重く受け止めます」と反省している(そのくせ控訴するというのは意味不明だが)。
「軽自動車に軽油」のたとえを使えば、「軽自動車には軽油を入れましょう、お得です」と宣伝したガソリンスタンドが厳しい処分を受けたようなものだ。それなのに、だまされた客の多くがいまだに「軽には軽油だよね」と言い合っている。実に情けない。

懲戒請求支持者の問題についてコンパクトにまとめられたブログ記事がある。とてもわかりやすいので「弁護団けしからん」「懲戒請求は当然」と思っている人にぜひ読んでほしい。

橋下弁護士VS弁護団-天狗の庭
弁護団批判および橋下弁護士支持のコメントは、3つに分かれるんじゃないかな。
1.事実誤認。
2.刑事手続、および人権への無知。
3.懲戒請求制度への無知。


「事実誤認」についてはマスコミの責任が大きい。私自身も「弁護団は裁判を死刑廃止運動に利用している」というデマを鵜呑みにしてしまったことがあり、えらそうなことは言えない。
「懲戒請求制度への無知」も仕方ない部分がある。実際に弁護士を依頼した経験のある人は少ない。弁護士から被害(「腹が立つ」程度ではなく実質的被害)を受ける可能性がなければ懲戒請求について知る必要もない。「和の国」日本で訴訟沙汰が嫌われてきた結果である。

だが、「刑事手続、および人権への無知」はとても見過ごせない大問題だ。
刑事裁判は社会を維持するのに欠かせない重要なメカニズムであり、人権は人間らしく生きるための基礎である。本来まともな社会人であれば最低限の常識としてわきまえていなければならないはずだ。ところが、懲戒請求騒ぎで橋下弁護士を支持する人たちの意見を読むと、「軽自動車には軽油」レベルの思い込みばかりが目立つ。というか、それしかない。
来年からは裁判員制度も始まるというのに、こんなありさまではいったいどうなってしまうのかと暗い気持になる。

「軽油で走る軽自動車がほしい」と思うこと自体は個人の自由である。
だが、現実の車、ガソリンで動くように設計された軽自動車に軽油を入れて走らせようとするのは無茶だ。「個人の自由」というようなものではなく単なる愚行でしかない。常識ある人間はやらないし、誰かがやろうとしていたら止める。親切というよりも道の真ん中でエンストされたら大いに迷惑だからだ。


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3 コメント

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もうそんな時代に (安部奈亮)
2008-10-25 20:41:17
子供の頃に母が運転していたダイハツの軽はディーゼルでしたが、もうどこも作っていないのですか。

最近の自動車のエンジンは機構や制御がややこしすぎるので、別の燃料を入れるのは避けた方がいいと思います。
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シャレード (玄倉川)
2008-10-26 19:13:58
>安部奈亮さん
お言葉を返すようですが、それって本当に軽だったのでしょうか。
お母様の車は80年代に作られていた「シャレード・ディーゼル」じゃないかと思います。

ttp://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%80%E3%82%A4%E3%83%8F%E3%83%84%E3%83%BB%E3%82%B7%E3%83%A3%E3%83%AC%E3%83%BC%E3%83%89#2.E4.BB.A3.E7.9B.AE.EF.BC.88G11.E7.B3.BB.E3.80.811983-1987.E5.B9.B4.EF.BC.89

1000ccでもディーゼルとしては小さすぎてメリットが薄く、業務用以外にはあまり売れませんでした。
軽(660cc)ではそれこそパワーが足りずうるさいばかりで、商品価値はないと思われます。
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ミラコーレだったと思います (安部奈亮)
2008-10-27 00:09:58
ダイハツだったと思うのですが、違ったかな。

ディーゼルという記憶があるのですが、子供ですし記憶に間違いがあるのかもしれません。
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