玄倉川の岸辺

悪行に報いがあるとは限りませんが、愚行の報いから逃れるのは難しいようです

夏の終わり

2007年09月12日 | 政治・外交
安倍総理大臣が辞意を表明した。
とにかくびっくりした。藪から水、寝耳に棒である。

安倍氏への批判は内から外から右から左から前から後ろから溢れるだろうから、特に私が付け加えることはない。
いまはただ「何とも勿体ない」と惜しむばかりだ。
これは安倍氏を惜しんでいるのではなく、一年前に存在したはずの「高い支持率・政治への期待」があたら失われたことを嘆いているのである。

安倍内閣が発足した約一年前、マスコミ各社の調査で内閣支持率は70%を超えていた。
私自身は安倍氏の支持者ではないので「安倍氏のどこがそんなにいいんだろう」「なぜこんなに支持率が高いのか」と疑問に抱きはしたものの、知り合いが多額の遺産を相続したときのようなうらやましさを感じた。彼の未来は約束されているように見えた。
ところが、特に大きな失策をしたわけでもないのに安倍内閣の支持率はずるずると下がり続けた。たしかに年金問題は多くの国民の怒りを呼んだが、社会保険庁のいい加減な仕事ぶりは安倍政権のずっと以前から続いていることであり、安倍氏にだけ責任を負わせるのは少々酷である。そのほかには一連の「政治とカネ」問題と閣僚の失言が支持率低下の原因と思われるが、どれも一つ一つを取ればたいしたことのない問題だ。
安倍内閣の支持率低下は、まるで大きな池に満々と湛えられていた水がいつのまにか消え失せたような不思議さを感じさせる。あの水は賢く使えば飲み水にも農業用水にもなったのに。蒸発したのか地面にしみこんだのか、それとも水面と見えたのは蜃気楼だったのか。

高い支持率を生かせず守れなかった安倍氏を批判するのはたやすいけれど、私はむしろ国民の「人気者」に対する期待が安直すぎるのではないかと不遜な疑いを抱く。
恋愛にたとえるならば、一年後にはすっかり冷めてしまうような相手にのぼせ上がるのは若者の特権である。若さも未来も無尽蔵にあると信じられるならひとときの恋に情熱を費やすのも悪くない。
だが、今の日本社会の姿は「楽天的な若者」なのだろうか。むしろ「堅実な中年」に近いのではないか。
成熟した大人、自分の人生を大事に考える成人であればお付き合いする相手は慎重に見極め、後で期待はずれだとわかったときも相手を責めるばかりではなく「自分に人を見る目がなかった」ことを反省するはずだ。誰かに簡単にのぼせ上がり簡単に冷める、そんな安易な恋を繰り返すようでは「いい年をしてみっともない」と顰蹙をかう。

安倍氏の次の総理大臣が誰になるのかわからないけれど、国民の皆様におかれましてはどうか人格識見を吟味して「手のひら返し」せずに済むような堅実な支持(それが低い支持率であっても)を与えていただきたいと願う。


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6 コメント

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Unknown (Unknown)
2007-09-12 19:53:22
次期政権の支持率が低迷すること、参院選で自民党が大敗するであろうということは、
小泉政権末期から既に予測されていたことでして、
まさに予想どおりの結果になったという感じですね。
当時の旧森派では若手エースである安倍さんに傷を付けまいと、
適当な中継ぎ総理を考えたりもしたようですが、
結局、あえて火中の栗を拾いにいく決心をしたんでしょう。
個人的にはもう少し安倍さんに頑張ってもらいたかったです。
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Unknown (akira)
2007-09-12 21:14:44
参議院選挙の大敗が痛かったですね。やはり最初の郵政造反組の復党が失速の元かな。
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Unknown (t02s828e)
2007-09-12 23:21:29
初期の高支持率はただのご祝儀だと思います。
逆に言えば無党派の人間(イデオロギーに染まってない)にできたばかりの内閣を支持するか聞けば基本的にはハイとなるでしょう。
しかし、無党派は政治に無関心な層ですから、安倍氏が行ったような政策になんら興味を持たないでしょう。その結果、無党派層からは安倍氏はなんら仕事をせず趣味に没頭してるように見えたのではないでしょうか。
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Unknown (Unknown)
2007-09-13 00:04:49
 参院選の公示前当たりごろ、多くのオピニオンリーダーが自民は大負けしないのではないかと言っていたころから、いや、この逆風は尋常ではないとわたしは思っていました。もっとも選挙が近づくと、自民40人割れもあるという予測も目立ちはじめましたが。

 私の予測の根拠は単純です。昼間のテレビ・ラジオの報道でした。明けても暮れても安倍内閣批判。当然のように、街頭インタビューは、何かわかったような安倍批判。そして、内閣支持率がまた下がったという世論調査のアナウンス。

 安倍さんの評価はおくとして、こんなときはテレビ・ラジオから遠ざかり、15年前、30年前の日本はどうだったのだろうかと、山本七平さん西部邁さんの著作にあたってみました。いつの時代もよく似ているなというのが、感想です。西部さんは現役ですから、日本のマスコミと大衆の堕落は、本に書いている時点がいつも最悪だといっています。つまり、年を経るごとに悪化していると。


>今の日本社会の姿は……「堅実な中年」に近いのではないか。
>成熟した大人、……「自分に人を見る目がなかった」ことを反省するはずだ。


ちょっ、ちょっと、待ってください、と叫びそうになって終わりまで読んだら、『国民の皆様』への皮肉なのね。だってお願いしても聞いてくれそうもないですもの。
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Unknown (安部奈亮)
2007-09-13 08:01:34
最近の日本人のカマトトぶりには私も食傷気味です。
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はじめまして (forrestal)
2007-09-13 09:48:19
はじめまして

TBを送らせて頂きました。すみません。不快、不愉快でしたら、削除してください。

拝見させて頂いておりましたが、はじめて書き込みです。

この度の辞任の原因は、多々あるとは、思います。
ただ、内閣総理大臣の肩にかかる、プレッシャーは、相当なものです。

前小泉総理でも、在任中は、不安で、毎晩、夜中に眼が醒めたと述べていました。

それだけ、責任が重いのです。好き、嫌い、支持、不支持はあるとは、思いますが、私は、敬意を払います。

どうも駄文、失礼、致しました。
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