黒古一夫BLOG

文学と徒然なる日常を綴ったBLOG

騙される側の罪(3)

2014-09-13 08:34:20 | 仕事
 このところ集中して「3・11フクシマ」関連の本を読み直してきた。文学者がフクシマに関してどのような発言をしてきたのかについては、すでに昨年刊行した『文学者の「核・フクシマ」論――吉本隆明・大江健三郎・村上春樹』(2013年3月 彩流社刊)を書く際に様々な角度からに検討したのだが、今度">>『村上春樹批判』(刊行時期など詳細はまだ決まっていないが、すでに中国語版は翻訳が済んで刊行をまつばかりになっており、中国語版とは少しバージョンを変えて刊行しよう、と版元と確認している)という本の刊行が決まったということもあって、フクシマに関して科学者はどう捉えていたのかを知りたくて小出裕章の本(『原発にウソ』扶桑社新書、『原発はいらない』幻冬舎ルネッサンス新書、佐高信との対談『原発と日本人』角川新書)を中心に読んできたのである。村上春樹のいわゆる「反核スピーチ」がいかにためにする講演であったか、を科学者の言説から明らかにしたいと思ったからである。
 そんな折、フクシマから3年経って、ようやく福島第一原発の当時の所長・故吉田昌郎のフクシマに関する「聴取記録」の全文が公開された。吉田元所長の「聴取記録」を読んで、すぐに思ったのは、小出裕章の著書を読み直していたということもあったからなのか、フクシマの爆発による犠牲者がゼロであったのは奇跡的(偶然の産物)でしかなかったこと、また原発というものは、本質的に「手に負えない存在」であって「人間と共存できないもの」ということであった。
 吉田氏が壊滅的な爆発を防ぐために東電本店の指示に逆らって事故を超した原発に海水を注入し続けたことはよく知られているが、しかしその吉田氏がマグニチュード9の大地震など想定していなかった、またそれに伴って起こった大津波も「想定外」と思ったということを知り、フクシマ後「救世主」のように扱われてきた吉田氏もまた「原発推進派」の原子力科学者であり、東電本店の「経済(利益)優先」の原発政策を是認してきたフクシマの「責任者」の一人であることを想起して、改めて「核は人間と共存できない」という原理を再確認せざるを得なかった。
 その意味で、吉田元所長の「聴取記録」などフクシマの関係者に対する「聴取記録」が公開されたのと軌を一にして朝日新聞が「吉田調書」に関する報道「東電社員が吉田所長の命令に違反して撤退」(5月20日付け)は、「誤報」だったと「謝罪」したことなど、誤解を恐れずに言えば、確かにその時東電社員たちのほとんどが、事故の処理ができず次の爆発を怖れて、また放射能汚染を怖れて第2原発に「退避」したのだから、右派のメディアが「誤報だ、誤報だ」と騒ぐほどの問題ではない、と僕は思う。つまり、「命令違反」であるかどうかなどが問題なのではなく、要はその時(今も)フクシマは人間の手ではどうにも処置できないほどに「暴走」しており、福島第一原発の関係者のほとんどが「事故」の対応ができずに、「逃げざるを得なかった」ということこそ、問題にすべきだと僕は思うのである。
 何やら、「慰安婦問題」と重ねて、ここぞとばかりに右派メディアを中心に朝日新聞たたきが華僑を迎えたという印象を持つが、「退避」という事実を「命令違反で、撤退」と書いただけで、朝日新聞が「謝罪しなければならないのであれば、東京オリンピックの招致に躍起となり、「フクシマは完全にコントロールされています」と世界に向かって宣言した安倍晋三首相こそ、「汚染水問題」が象徴するようにフクシマが未だ収束していない現実を鑑みれば、「謝罪」すべきである。 また、「新閣僚インタビュー」で、「原発再稼働と核廃棄物の最終処分問題(再処理問題)とは関係ない」といった主旨の発言をした、原発について全く「無知」な経産大臣小渕優子も、国民に対して「謝罪」すべきである
 どうやら、「極右」安倍政権は、反対派の代表と目されている朝日新聞を「たたく」ことで、いよいよ戦前と同じような「言論封殺」に乗り出したのではないか、と僕には思える。昨今の地方自治体による「政権寄り」の言論対策(護憲派や反原発派の集会に会場を貸さなかったりする傾向)を見ていると、余計そのように思える。
 何とかしなければ、と切に思う。
 
 

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1 コメント

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Unknown (Unknown)
2014-09-14 08:30:16
原発推進・反対の以前に、朝日新聞の誤報により国家権力ではなく、東電の一般社員が傷ついたことは曲げようの無い事実です
そしてこの誤報が世界に発信され、「日本の労働者は危機には命令に反してでも逃げ出す」という印象を広めました

国家の尊厳を傷つけたのではありません
日本人の労働者を傷つけたのです

謝罪するのは当然でしょう
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