牛コラム

肥育牛と美味しい牛肉のはなし

新聞を読んで

2009-08-11 19:43:06 | 肥育技術



本日付けの日本農業新聞の末頁に優秀和牛生産事例が3例紹介されている。
1例目は放牧による低コスト生産、2例目は一貫生産事例で、経営者個人の取り組み、3例目は自治体や和牛改良組合における取り組み内容である。

1例目は、全国畜産草地コンクールにおいて大臣賞を受賞した青森県むつ市の鈴木悦雄夫妻の和牛繁殖経営が紹介されている。
和牛の飼育は、夏山冬里方式で、41.39haの放牧地を利用して、成雌牛65頭、育成牛10頭を飼育して、繁殖部門だけで、07年には3,735万円の売上があったという。
自家製堆肥を活用して放牧場や草地などに還元して、粗飼料は100%自家生産、濃厚飼料を含めても約80%が自給飼料で賄われ、徹底した低コスト生産が行われている。
そのために、子牛価格の変動に左右されない安定した繁殖経営であるというコメントが付記されている。
鈴木氏の放牧経営は、「和牛は草で育つ」の理念通りの理想的な経営内容となっている。

2例目は、子牛生産と肥育の一環経営をしいる静岡県の杉浦務氏の事例である。
この経営の特徴は、自家保留する雌牛の選定基準にあり、生ませた初産2産目を肥育し、5等級が出た母牛を残すというもので、種雄牛優先であった考えから、母牛の能力を重視する方針に替えたことにあるようだ。
この方式は、一環経営で、子牛育成から肥育までの飼育内容がほぼ全頭同様である中での選抜方式であることが信頼性を高め、優れた成果が得られていると判断できる。
優れた成績が実績にあれば、その遺伝能力は母牛に潜在的に保有されているはずである。その能力を一々確認しながら、同様の飼育環境で旨く活かしていることに、繁殖部門のみの経営より、効率的に取り入れていることが利点に繋がっている。
また、肥育分野でも、当センターでは、素牛選定については、常に同じ子牛市場で、兄弟牛を導入し、母体の能力と生産者の育成技術について、それらの肥育結果から、ピックアップして選定している。
これは、基本的には、母牛の能力を重視する考えであり、その選定思考は肥育結果からのフィードバックを活かすことで杉浦氏の思考に共通している。
この事例は、つまりは、常に如何に優秀牛を作出するかの意気込みの上で成り立っている成果でもある。

3例目は、各所の大型肥育センターや繁殖経営者などでは既に実施されている取り組みを遅ればせながら自治体なども、繁殖成績をデーターベース化して、繁殖雌牛の出産間隔・肥育効率などの能力を把握したいが狙いのようである。
繁殖雌牛の能力を重視するという取り組みは、10年以上前から全国和牛登録協会が繁殖雌牛の能力を重視した和牛アニマルモデルの基本理念となっており、今日の育種価表示などに活かされ、雌牛重視は繁殖経営者などには一般的で常識の範囲内にある。
雌牛重視が大事だというこれらの紹介記事事態、「今頃か!」であり、行政の取り組みの遅れを危惧する次第である。
が、取り組まないことよりはマシで、係る能力が把握出来るようになっても、それ以降の次の取り組みの方が、厄介である。
筆者も種雄牛と繁殖雌牛との交配結果を重視して分析しているが、両親が同じ組み合わせの全兄弟牛3頭を同様の肥育を行った結果、仕上げ体重はほぼ同様でも、肉質にはかなりの差があったり、3代祖が全く同じの去勢牛20頭の肥育成績についても、かなりのバラツキが見られ、同様の傾向とはならない結果がある。
加えて、繁殖者、育成者、肥育者がそれぞれ異なる環境下では、偶然に好成績になるケースもあるが、大方はバラバラである。
この様な飼育環境にある第一線で活かされる繁殖能力とは如何なものだろうか。
この構想が着実に成就し生産者の利益となることを大いに期待して止まない。