ヒロの残日録 

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ある日の診察室の光景…怒る妻に、認知症の夫が「いつもありがとう」

2023年06月13日 | 日記
 認知症研究の第一人者:新井平伊 順天堂大学医学部名誉教授

現在、アルツハイマー病には4種類の薬が認可されています。
いずれも認知症の進行を止めるものではなく、
記憶障害や行動障害を劇的に改善させるものでもありません。
外来診察の大事な目的のひとつが、患者さんと付き添いのご家族とのやりとりを見ることです。
私が患者さん、ご家族によく言うのは「敵は病気だよ」ということ。

私の外来では、アルツハイマー病の方の診察はだいたい月に1回。
ある日の診察室での光景です--。

旦那さんが認知症で、奥さんが付き添い。その奥さんが怒りをあらわに、私に訴えます。
「お父さん、何度も何度も『今日は病院行く日か?』って聞くんです。『そうよ』って言っても、
すぐ忘れちゃって、朝から何度も『今日は病院行く日か?』! 頭にきて、『いい加減にしてっ』と
怒ってしまいました」

「妻は鬼なんです」(診察室だと患者さんは勇気を持って言えます)
「そうね、でもそれは一番心配しているからで、ほんとは一番の味方だということは分かってるもんね?」

すると、落ち着かない様子で奥さんの隣に座っていた旦那さんが言いました。
「妻には、いつも良くしてもらっていて」
「ほんと、いい奥さんですよね」
「そうなんです。いつも感謝しているんです」
奥さんは「この人、またそんな調子のいいこと言って」とつぶやきながら、涙ぐんでいました。

患者さんから「ありがとう」とご家族への感謝の言葉も飛び出し、
ご家族のたまっていたマイナスの感情が消えていく。そんな光景が、診察室でよく見られます
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