☕コーヒーブレイク

時が過ぎていく。
ときには、その日の風まかせ。
ほっとひと息しませんか。

忘れられない看護エピソードより

2021-02-01 09:24:17 | 日記
 2020年『日本看護協会』看護エピソードより
佐賀県鳥栖市の看護師斎藤泰臣さん(43)の作品「その声」が最優秀賞に選ばれたました。
電車内で父親の臨終の場に向かう男性と、乗客の思いやりを描写しています。

「病院まで遠いよ。最期の会話になるかもしれない」「そんなことない。間に合う」と小声で言い争う
男女の声が、師走の電車に揺られていた私の耳に入ってきた。聞き耳を立てるつもりはなかったが、切
羽詰まった男女のやり取りと内容が気になった。
夫婦と思しき 2 人は、携帯電話をのぞき込み会話を続けていた。「電話したほうが良いよ」「いや、人
の迷惑になる。駅に着いてからでいい」。他の乗客も気になるのか、2 人に視線を向けていた。「意識な
くても耳は聞こえるって。掛けなさいよ。お義父さん、待っているよ」「電車内だから掛けられないよ」。
お互いに感情が高ぶり、少しずつ声が大きくなっていた。携帯電話の向こう側で、息を引き取ろうとし
ている父親がいて、臨終の場に間に合わない状況にあるということは、その場の誰しもが理解できた。
緩和ケア病棟に勤務する私にとっては、静観できない場面であった。病棟では家族から患者への最期の
声掛けを、後悔がないように気持ちを伝えることを促してきた。躊躇いながらも席を立ち、2 人に近付こ
うかとした時、「電話、掛けたほうがいいですよ」と 2 人の正面に座っていた女性が声を掛けた。近くに
いた乗客も見守りながら頷いている。背中を押されたように男性が電話を掛ける。「お袋、親父の耳元に
携帯電話を置いてくれ」。電車内に声が響く。「親父、親父が一生懸命働いてくれたから、俺たちは
腹一杯に飯が食えて、少しもひもじい思いしなかったよ。心配しないでいいから。本当に、本当にあり
がとう」。静まり返る電車内で嗚咽を懸命に抑える男性。苦情を言う者などいもしなかった。
2 人は何度も乗客に頭を下げながら、目的の駅で降りていった。電車内に師走の喧騒と冷気が入り込む。
しかし、言葉にはできない胸の温かさを私は感じていた。あの場にいた誰もが、まさに「看護」をして
いた。そして誰もが胸の温かさと同様に感じていただろう、「その声は届いている」と。

 心温まるエピソードですね。人の思いやりと優しさが心に沁みます。

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