受精後23日ごろから=當瀬規嗣解説
心臓の鼓動が生きている証しであるというと、どんたでも同意してい ただけると思います。生きている間じゅう心臓は休みなく鼓動を繰り 返し、鼓動が途切れるときには人は終焉を迎えます。では、心臓の 鼓動はいつ始まるのでしょうか。それはお母さんのおなかの中にい るころであることは、皆さんご存じだと思います。でも、正確にはいつ なのか、ご存じないと思います。赤ちゃんはお母さんのおなかの中 で生きてゆくための体のしくみのほとんどを整えます。心臓し血管が できて、全身に血液が流れるようになり、これによって他の臓器の形 成が促される、と考えられています。つまり、心臓の拍動が始まる時 期は、とても早い時期なのです。これまでの研究で、その時期は受 精後23日ごろと考えられています。つまり妊娠5週の半ばごろでしょ うか。このときは、お母さんはまだ妊娠に気づいていないことがほとん どでしょう。この時期の心臓は、まだとても心臓と分かるような形をし ていなくて、ただの筒のようにみえる時期です。そんな早い時期から 心臓は休みなく確実に鼓動し続けているのです。その後、成長して 次第に大きくなる心臓の鼓動は、エコ-診断器などを使ってお母さん のおなかの上から聞くことができます。産科でお子さんの心臓の鼓 動を聞かれたお母さんも多いと思います。わが子が出来たことを実 感して、喜びがこみ上げる瞬間ですね。私は、この生きている証しで ある鼓動に魅せられて、研究の道に入ったのです。 (とうせ・のりつぐ=札医大医学部長)