ヒトが繁栄した決め手=「當瀬規嗣解説」
地球上の動物にはさまざまな優れた能力があります。犬の嗅覚、 猫のバランス感覚、ネズミのすばっしこさ、馬の足の速さ、などなど。 では、ヒトには優れた能力があるのでしょうか?まあ、知能、言語、 道具を使うといったことが、優れた能力といえるかもしれませんが、 身体の能力そのものではありません。体の働きとして、ヒトが他の 動物に比べて特に秀でているのは、視力ぐらいでしょう。たとえば、 犬はヒトに比べると近眼で、色も3色程度しか識別できません。ただ、 動くものをとらえる能力は高く、野生のときには獲物を捕らえるため に備わったものと考えられます。ヒトは、動くものをとらえる能力より、 ものを注視し見分ける能力に勝ります。ものにピントを合わせて、色 を正確に識別できるからです。さらに、両方の目で同じものを見るこ とができ、それにより遠近感を正確につかむことができます。牛や 馬などは両目が大きく離れているので、遠近感があまりないと考え られています。ヒトがものを正確に見ることができる能力は、ヒトが 道具を作り、使いこなすために必要不可欠です。道具を使えるように なったヒトは、さらに知能が発達し、ついに言語を獲得します。文字 を使いこなすことも、近くのものを正確に見る能力があってこそ可能 になるのです。力や運動能力で、他の動物に比べてはるかに劣って いて、飛べず、水中で生活できないヒトが、地球上でこれだけ繁栄し た身体的決め手は視力なのです。ヒトは目が頼りの動物です。目を 大切にしましょう。(とうせ・のりつぐ=札医大医学部長)