○商店経営って何でしょう=杉山フル-ツ店主 損得よりも「心の交換」
←魂を込めて生ゼリ-を作る。出張販売のこと を「ライブツア-」と称しているが、7月上旬に東 京・銀座のデパ-トで行ったライブでは連日、完 売が続いた
杉山さんは婿養子だ。栃木県二宮町生まれ。父親を早くに亡くし、 親類の元で育つなどの苦労を重ねた。県立真岡高校を卒業後、東 京都内のホテルに就職し、フレンチのコックを目指した。同じホテル のフロントに、妻となる郁美さんがいた。郁美さんの実家が1950年 創業の「杉山フル-ツ」。結婚後、「女房の実家を継ぐ」とホテルを辞 め、82年、静岡県の吉原に移った。
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当時は「黙っていても客が来た」。商店街にあったス-パ-が、どん どん客を引き込んでいたのだ。「個人商店も、おこぼれにあずかって いた。コバンザメというか、共存共栄というか」しかし、時代は郊外型 大型店舗に確実にシフトしていった。ス-パ-は98年に撤退。夫婦 と義理の両親が経営する典型的な「パパ・ママストア」は改革を迫ら れた。ギフト商品への特化に生き残りを懸けた。夫婦で全日本ギフト 協会公認のラッピングコ-ディネ-タ-の資格を取得。包装ををアピ -ルする一方、「故郷で独り暮らしをする母親へ」「心に響く、結婚式 の引き出物を」などの個別の注文にも、誠実に対応していった。「本 当に、お客さんのために戦っているか、と自問しているんです」と杉山 さん例えばお歳暮ようのミカンは仕入れてから、箱から出し、一個一 個チェックする。「ひとつでも傷んだ物があったら、こちらの信用がなく なるのでですから、当然のこと」。その信用が積み重なり、今では一 個1万円近いギフト用の高級メロンを年間、約9千個も売る。「杉山さ んなら大丈夫」。客からこの言葉が聞かれるようになったことを喜ぶ。 改革前には8千万円前後だった年商は倍以上になった。ホ-ムペ- ジ(HP)を通じて、顧客は道内を含む全国に及んでいる。杉山さんは、 果物のエキスパ-トを養成する日本ベジタブル&フル-ツマイスタ- 協認定のソムリエ第一期生でもある。その肩書きと経験、知識を生か し、生フル-ツゼリ-を開発、この3年間で40万個を売った。植物性 素材を使った透明なゼリ-にカットフル-ツが浮かぶ。そのみずみずし さは人気を呼び、インタ-ネットでも話題に。平日に3百個、週末に7 百個を作るものの、午前中には完売してしまう。予約を受け付けてい るが、今では4ヵ月待ちだ。杉山さんはゼリ-を「作品」と呼ぶ。「商品 ではありません。魂で勝負した、入魂のゼ゛リ-です。求めている人の 顔を思い描きなか゛ら作っています」。大手ス-パ-やメ-カ-などが ライセンス生産を持ちかけるが「品質が維持できない」と断っている。 「損得より善悪を考えなければなりません。売り上げという数字に追い かけられるなら『物々交換』。私は心と心を交換したいんです」
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かっては東海道の宿場町としてにぎわった吉原の商店街も、全国 の商店街同様、シャッタ-を閉めたままの店舗が目立つ。全盛期 には120店が営業していたが、現在は70店程度という。「しかし」と 杉山さん。「立地条件は関係ない。田舎でも、都会でも、店に魅力さ えあれば、お客は呼べる。『駐車場がない』『行政がなにもやってく れない』そんなことばかり言っていてもダメ。ダメになる要因は内部 にある」と厳しい。「楽しくなければ仕事じゃない。店のシャッタ-か゛ 開くときは、舞台の幕が上がるのと同じ。そこから、お客さんと店員 によるステ-ジが始まる。真剣なステ-ジを繰り広げれば、お客さん にも熱意が伝わるはず」小さくても、きらりと光る店。杉山さんのステ -ジはまだまだ続く。