陰湿で巧妙化するいじめ。被害者の保護を最優先で 「教室の悪魔」著者
「教室の悪魔」を書くことになったきっかけからお話をしたいと思います。 一昨年、いじめの報道がたくさんありました。自殺者が相次いで、その かなりの報道が間違っていると思ったのです。例えば、最悪なのか゛ 「いじめられる側に問題がある」とか、いじめられている子に対しするメ ッセ-ジとして「負けないで」とか「立ち向かって」という報道。これじゃ あ、いじめられている子がどんどん死にたくなる。マスコミはやっぱり犯 人捜しです。先生が悪い、校長が悪い、教育委員会が悪いと。悪い人 捜しばかりしていて、具体的に解決に向けた話し合いがなされていな いように思えたのです。
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いじめをやめるにはどうするのか。大人がいじめを許さないのは、子ども はとっくに知っている。だから隠している。今のいじめの実態を知らなきゃ いけない。陰湿になっているし、巧妙になっている。携帯電話とインタ- ネットを使えるようになったことで、子どもたちは匿名性を手に入れました。 匿名でいじめができるようになった。今のいじめの構造は、被害者一人 で、残り全員が加害者です。例えば、メ-ルやインタ-ネットを使った援 助交際のうわさを流す。ホテル街で見たとか、財布に何十万円入ってい たとか。家族に対してもひぼう中傷する。借金を抱えている、お母さんが 売春している、と。全く事実無根です。ひぼう中傷の巧妙なところは、い じめの理由が後からつくられること。「しょうがないじゃん。あの子、援助 交際してて汚いんだもん」という話になるのです。いじめが正当化され、 理由が先にあったからいじめられてきたんだ、となっていく。これに先生 も巻き込まれちゃうわけです。最近、いじめは子どもたちの権力争いだと 思うようになりました。今の子どもの友人関係はすごく不安定です。ころ ころ友達関係が変わっていく。嫌われちゃうとか、KY(空気が読めない) とか思われることに、おびえています。ある女の子は言いました。「親友 にだけは本音が言えない。嫌われちゃうから」。すごくおかしいでしょう。 心と心のつなか゛りが信じられなくなっている中で、この子たちは何によ って関係性をつくったかというと、権力争いだと思うんです。自分が被害 者にならない、傷つかない。地位を安定させるために、いじめ社会の中で、 権力を得ようとするわけです。こんなひどいことが起っていれば、教師は 気付くだろうという議論があります。気付くわけがない。子どもたちは必 死に隠していますから。いじめられている子どもたちはなぜ誰にも言えな いのか。大人に話せば、いじめが悪化すると思っているからです。お父さ んやお母さんを好きかどうかとは全く別に、子どもは、大人はいじめを解決 できないと思っています。大人への不信です。私は大人がいじめの解決 に取り組むことは、子どもたちへの信頼回復だと思っています。解決に向 けて、私が提案するのは二本柱です。「被害者の保護」と「問題の解決」 です。そして、これを分けましょうという提案です。
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被害者の保護。学校を休ませなければだめで す。「いじめがなくなるまで学校に行かなくてい いんだよ」と話をする。とにかく、子どもの心を休 ませることが最優先です。学校やいじめのこと には触れず、親子で楽しい日々を送ればいい。 まずは家庭という場所で、毎日が安全で自分が 被害に遭わないということを確認する。ここからが、 心を癒すことのスタ-トです。問題の解決に当た って、学校に話し合いに行くときは、まず、いじめ があったという事実を伝える。怒鳴り込みに行く 場じゃない。だからこそ、いじめについての責任追及をしないでくた せさい、と親御さんにお願いしています。責任を取れという話をし始 めたら、敵対し、解決の話し合いはできません。学校の本当の責任 は、いじめをなくすこと。被害に遭った子は加害者をどうにかしてくれ とは言ってない。いじめをなくしてくれと言っているのです。学校にも お願いしています。事実の調査をしないこと。学校は、保護者が「う ちの子がいじめられていた」と来たら、「調べさせてください」と言わ ないでほしい。「分かりました。わが校にいじめがあったんですね」と 認めてほしい。被害者がいたんだから、いじめはあったのです。潔く 認める態度が、次からの信頼につながると思います。
やまわきゆきこ=1969年、東京都出身。横浜市立大学卒業後 、都 児童相談センタ-職員。多くの子どもや家族の相談を受けながら、講 演などを通じて現場の声を発信している。「教室の悪魔」(ポプラ社)で 現代のいじめの実態と解決法を示す。最新刊に「モンスタ-ペアレント の正体」(中央法規出版)。