怪しい中年だったテニスクラブ

いつも半分酔っ払っていながらテニスをするという不健康なテニスクラブの活動日誌

「水力発電が日本を救う」竹村公太郎

2019-01-01 09:16:36 | 
あけましておめでとうございます。新年一発目のブログは特に書くこともなくて年末に読んだブックレビューです。今年もよろしくご愛読ください。
なかなか魅力的な提言です。
ダムを新設するのではなく今あるダムのかさ上げとかオペレーションの変更によって膨大な電力を生み出すことができる。これは太陽光発電なんかよりよほどエコな政策提言です。
でも元国土交通省河川局長という肩書を見るとどうして現役の時にやらなかったのと感じてしまいます。最終章には議員立法による詳細な制度設計まであるのですが、それならば余計に思います。いろいろなしがらみなどの大人の事情があったんでしょうか。
それはさておき、著者は現役時代に3か所の大きなダムの建設に実際に携わっていてダム工事の詳細から現場感覚とか地元の気持ちもよくわかっているので、説得力があります。

ダムはコンクリートの塊で鉄筋が入っていません。そのため腐食する心配がないので半永久的にもつとか。高さと幅はほぼ同じ程度(高さ100メートルのダムの壁の厚さは100メートルある)と言う巨大さで、岩盤と一体となって作られている。今は土砂抜きの穴を整備しているのでダム湖が埋まっていく心配もある程度解決済み。埋まっても浚渫すればいいし、その費用はダムの新設と比べれば格段に低い。
太陽エネルギーが巡り巡っての雨になり、ダムはそのエネルギーをダムは貯蔵して利用するので、大きなエネルギー資源と言える。
水力発電の原価はダムの運転経費を除けば、ほとんどが初期の建設費なのだが、これが半永久的に使えるのなら低コストなエネルギーになる。
ではどう運用すれば新たな電力を生み出すことができるのか。
実は日本の現在のダムはダム湖に半分ぐらいしか水を貯めていない。それはある面で相矛盾する治水と利水を目的にしているため。発電のためならできるだけ貯水したほうがいいのだが、利水のためには大雨で川の氾濫を防ぐために水は貯めてはいけない。結果、ダムは満水の半分ぐらいの貯水量で運用されている。
しかし、今は気象衛星などによってかなり正確に天気が予想できる。3日目までに大雨の予報が分かれば川の増水前に予備放流すればいい。未だに法律は昭和30年代のままで運用も変わっていないのだが、天気予報の精度がこれだけ向上した現代ではダムの容量を大きく空ける必要はないはず。ダムの持っている潜在的な能力を十分に発揮すれば発電量は倍にすることができると。なぜ自分の時にやらないのかという意見には、行政の縦割りの弊害を説いていますが、ここから先は政治の世界なのか。
更にダムを10%かさ上げすれば発電量は容積に比例するので6割以上増える計算になる。かさ上げ工事は古いダムを包み込むような形にすればいいのだが、一般的にダム工事では本体部分の工事費は全体のほんの一部で、水源地域への負担もほとんどないので土木工事の規模は同じでも新設と比べて3分の1以下になるはず。
こういう政策を進めていけば水力発電のコストは将来的にはどんどん下がっていきもっとも安い電力となる可能性がある。まあ、石油も天然ガスもウランも使わないから原材料費はタダだからね。
試算では、現在900億kwhの水力発電の発電量を運用変更とかさ上げで343億kwh増やすことができると言う。
更に発電には利用されていない砂防ダムを始めとした中小のダムについても、発電に利用できるようになれば、可能性として1000kwhの電力量が増やせると著者は考えている。まさに現在は埋もれている埋蔵金です。
砂防ダムを利用した小規模発電については、この本の中で詳細な制度設計をしている。民間企業では合意に時間がかかりすぎ、地元でやるには資金力がなく担保もない。水源地域支援の体制を整備、具体的には、政府による信用保証を制度を創設して、支援の技術団体を創設して地元の民間企業を使って、利益はすべて水源地域に行くようにし、環境整備、森林整備新たな雇用を生み出すというスキームです。さすがに元河川局長と言うだけあってよく練り込んで有り、損益計算もしっかりできていて実現可能性が高そうに思えます。でもあまりОBの活用と言われるとダム建設族が新しいダムをつくる余地がなくなったので我田引水して生き残り策を考えているのではと眉に唾をつけたくなるのは下司の勘繰りか。
それはさておき、これからますます化石燃料の使用が難しくなる中、資源小国と言われている日本にとって希望の持てる魅力的な提言です。でもこの動きはどれだけ具体的に進んでいるのでしょうか?最近の異常豪雨などではダム災害と言われる時もあり、利水と治水のボーダーラインは難しいというのは実感で簡単には割り切れないかとも思うのですけど。
コメント
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