怪しい中年だったテニスクラブ

いつも半分酔っ払っていながらテニスをするという不健康なテニスクラブの活動日誌

「永遠のおでかけ」益田ミリ

2019-01-12 07:06:07 | 
タイトルで何となくわかるけれど、この本は益田ミリの父親が亡くなるまでとその後ことを綴ったエッセイ。
読んでいると自分の父のことが思い出されて、ああ、この感覚はわたしだけではなかったんだと感じられます。父は亡くなってもう丸6年たちますが、その頃の記憶を呼び起こしてくれました。

以前このブログでもレビューを載せましたが、「オトーさんという男」に書いてあるように、著者は父親とは必ずしも仲が良かったわけではない。
どちらかというと苦手な相手?短気ですぐにかっとなる。おだてられるとうれしくなる単純な人であり、不器用で、勤勉で努力家。まじめな人。でも金にはきれいでケチではない。
こんな風に娘に書かれると当人はどう思うのだろうか。案外喜んでいるかも。著者の本や連載はちゃんと読んでいたみたいだし。
エッセイは叔父の死から始まり、その後程なくして父の入院とがんのステージ4が告げられる。
私も経験があるが医師は家族を呼んでパソコンを見ながら至って淡々と事実を説明する。
告知をすべきかどうか、家族3人で話し合い告知をすることにしたのだが、結果、検査や治療はもう何もしたくないのでと翌日に退院。
離れて暮らしていることをいいことに著者は父の死を前にしても仕事をし、買い物をし、カフェで本を読んだり、普段と変わらない時間は流れるのです。でもひょんな時にこみあげてくるものがあるんですよね。何が進行していても日々の生活は流れていくんだけど、突然思いが押し寄せてくる。この感覚は分かるな…
たまに実家に帰ればコンビニにまで付き合って、おでんを買う。父に買ってもらうのはこれが最後かもと思いつつ。
退院後は睡眠と食事以外はしなくなっていたので、「語り」というイベントを盛り込もうと取材として父の話を聞くことに。聞いてみると記憶が数珠つなぎに呼び起こされるようで、メモがいっぱいになるくらいに話す。
そう言えば私は父の一生の来し方を聞いたことがあるのだろうか。父は大正生まれの男子の性で無口だった。こちらから聞いたこともないし、話もしなかった。でもお酒を飲んだ時だけは機嫌がよくなると軍隊時代の話をよくしていた。なぜか通信兵として偵察飛行機の百式偵に搭乗していたとかで、偵察飛行にも何回も行ったけれど一度も敵に遭遇しなかったとか。これはすごく幸運なことみたいで、敵に遭遇すると大抵撃墜されて生きて帰れなかったみたい。でも家業の自転車屋を継ぐにあたってどういう修業をしたとか、どうやって仕事をしてここまでやってきたとかは聞いたこともない。母からは愚痴らしきものはいろいろ聞きましたけどね。父に人生を話してくれと言ったらどう反応したのでしょうか。ちゃんと一度聞いておくべきだったかと一寸後悔しています。
著者が帰省するたびに父の話を聞き、昔の思い出を呼び起こしているのだが、小さな部品が、少しずつ外れていくみたいに、調子が悪くなっていく。帰り道に涙がこぼれるのですが、わたしも見舞いに行くたびに父の具合が悪くなっていくのを見て帰り道に涙がこぼれた経験があります。
程なく自宅の自分の部屋で母の手を握りながら息を引き取るのですが、著者は死に目には会えなかった。待っていてほしいと思うのですが、でもそれは父の人生だから誰かを待つとかでなくていいと思いなおしています。
実は私の場合、父はかなり危ないので入院させようとなったのですが、当日は土曜日でも仕事が入っていて職場にいました。急変したとの連絡を受けて駆け付けたのですが、もう無駄な蘇生術をしている状態。家族の了解があれば中止しますというので結果私が中止を言い、引導を渡したことになりました。無駄なことはしないで淡々と宣告してくれればよかったのですけどと今でも思っています。
どうも本とは関係ない自分のことばかりを書いてしまっていますね。益田ミリの本はほんわかした雰囲気の文章が心の底に眠っていたことを引き出してくる力があるみたいです。
ところで人が亡くなると残されたものは後始末に奔走しなければいけません。葬儀会社との交渉とかいくら質素にと思ってもなかなか一番安いものでとは言いにくいものです。銀行口座の手続きもわざと意地悪しているかと思うぐらい。著者も相続専用電話で聞いてくれと言われ支店の銀行員に泣き落としをしている。私も三菱UFJ銀行の支店まで行ったのに電話の専用窓口の担当者の言うことに従ってくれと言われ、ムカついた記憶があります。それでも一通り事務仕事が過ぎると何かの折にふと思い出があふれ出ることがある。残された母との交流の中にも背景には父の生きざまがあって自分の人生にも気づかないうちに投影されている。でもそれが自分の人生を生きているということ・・・
150ページほどの本ですが、激しく共感できるところも多々あり、ほんわかと心動かされました。

コメント (1)    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 1月5日瑞穂公園テニスコート | トップ | 1月14日鶴舞公園テニスコート »
最新の画像もっと見る

1 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (ひげおじさん)
2019-01-14 16:12:49
興味深く読ませていただきました。私は19で父を26で母を送っている上、名古屋にいなかったのでほとんど大人同士の会話はなく、羨ましい中にもスレ主さんでも不全感があるのだな、と認識しました。
前にも書きましたが、雁道のお祭りでお父様とお話しさせていただいたときは「Kは市役所で頑張ってるから」ととてもうれしそうに話してくださいました。
自分史を伝えるって親子でもなかなか機会がないですね。テレもあるし。ちょっと刺激になりました。ありがとうございました。
返信する

コメントを投稿

」カテゴリの最新記事