怪しい中年だったテニスクラブ

いつも半分酔っ払っていながらテニスをするという不健康なテニスクラブの活動日誌

逢坂剛「暗殺者の森」

2024-08-08 07:50:10 | 
逢坂剛のスペインシリーズ。
おなじみの陸軍参謀本部総務部付情報将校で日系ペルー人を名乗りスペイン国籍を持つ北都昭平、聯盟通信ベルリン支局長の尾形正義、イギリスМI6第5課員のヴァジニア・クレイトンがスペイン、ドイツを舞台に活躍します。この逢坂剛のスペインシリーズ、「イベリアの雷鳴」からもう何冊目か分かりませんが読んだことがあるのは1~2冊のはず。連作なのですが、順番に読まず、途中経過をすっ飛ばしてこの本をいきなり読んでも十分楽しめます。
いよいよ佳境に入りドイツも日本も敗戦必至の状況に。ノルマンディ上陸作戦が挙行される中、ドイツ内部ではヒットラー暗殺計画が進んでいく。

今回は北都昭平も尾形正義もどちらかというと主役ではなくて脇役と言うか狂言回し役。
物語は結局失敗に終わった1944年7月のヒットラー暗殺計画を詳細に描写していく。確かトムクルーズ主演の映画にもなっているのですが、見ていませんし、この件についての知識はほとんどありませんでした。たぶん膨大な資料と格闘し詳細な取材によって作戦の全貌を明らかにすることによって、かなり確度の高い事実に基づいているものとして小説というよりはドキュメントを読んでいる気分でした。
ヒットラーを暗殺しナチス体制を崩壊させ、ドイツを完全な破壊から救い英米と講和を結ぼうとするクーデター計画「ヴァルキューレ作戦」。主役はヒットラー暗殺計画の実行犯の国内予備軍参謀長のクラウス・フォン・シュタウフェンベルク大佐。見事ヒットラーの出席する会議室に爆弾をセットしたうえで会議を中座して爆弾を爆発させる。
暗殺は成功したと思われ、ただちにベルリンに戻ったシュタウフェンベルク大佐は、SSがヒットラーを暗殺しクーデターを起こしたためこれを制圧して首都の秩序を維持すると言う名目でヴァルキューレ作戦を発動を要請。ナチス政府の主要機関や先頭集団を無力化し、放送局等の報道機関を占拠してベルリンにいるナチス高官を逮捕する。
ところが兵舎の会議室で爆発はあったが、なんと軽傷を負っただけでヒットラーは生きていた。厚い樫の樹の天板と同じく厚い板の脚のテーブルで爆発がヒットラーを直撃することはなかったみたいだ。暑いので会議室の窓が開いており爆風がこもらなかったとか、爆弾の入ったカバンの位置を後でずらしたものがいたとか偶然の賜物なのだろうが、あれだけの爆発があってもヒットラーは生きていた。
まさにヒットラーは幸運の星のもとに生まれた神に選ばれたものだったのか。
ヒットラー死亡の確証が取れずに国内予備軍司令官フロムは逡巡し、計画発動は遅れていく。結果的に通信網は遮断されずに放送局等報道機関も占拠されないままとなり、逆にヒットラーが生きていると報道されてしまう。クーデターに参加するはずの将校もヒットラーが生きているとなると次々に日和見してしまい、あえなくクーデターは失敗してしまう。
会議室にはヒムラーもゲーリング、ゲッペルスもいないなか、例えヒットラー暗殺に成功したとしてもクーデターを成功させるのは難しかったか?暗殺実行犯のシュタウフェンベルク大佐では荷が重く、不退転の決意で責任ある立場の者が強い意志をもって厳正かつ迅速に遂行しないといけなかったのだが、国内予備軍の将軍たちにはその意思がなかった。どうも末期的な組織のひっちゃかめっちゃかの在り様は読むだけで胸が悪くなりそうです。
もはやドイツの敗戦は免れないと誰もが思っていてもヒットラー1人が降伏を拒否し、それに誰も逆らえないと言う体制はどこかに決定的な病根があるように見える。
因みにこの計画には関係はなかったのだが、ヒットラー亡き後の体制について相談を受けたことによってロンメル将軍は自殺を強いられている。発表は脳血栓による急逝で英雄として国葬された。
この小説はドイツの無条件降伏で終わっているのだが,九死に一生を得てスペインに戻ってきた北都とヴァジニアはその後どうなるのだろうか、ドイツ降伏後の尾形正義は日本に帰るのか?処刑されたはずのカナリス将軍は生きているのか。ドイツ降伏後はソ連との諜報戦が始まるのだが、МI6の密かにソ連寄りのフィルビーはどう振舞うのか。
ドイツ降伏でいわゆるこのイベリアシリーズはクライマックスを迎えたのだが、さあこれからどうなる。


コメント
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