怪しい中年だったテニスクラブ

いつも半分酔っ払っていながらテニスをするという不健康なテニスクラブの活動日誌

「世紀の空売り」マイケル・ルイス

2016-05-19 22:29:42 | 
リーマンショックの傷はいまだ完全に癒えていなくて、現在の中国バブルの崩壊の兆しは元をたどればリーマンショック後の世界同時不況に対する内需拡大策のつけが回ってきたのだろう。
アメリカの住宅バブルが始まった時、さらに住宅需要を喚起するために本来ならとても住宅ローンを借りれないような人たちにもまともな審査をすることなく貸し出していった。貸し倒れの心配がないプライム金利を適用できる人たちだけでは収まらずに、返済能力も怪しい人たちに最初の2年間は低金利のサブプライムローンで優遇する。その間に購入した住宅価格が上がっていけば仮に貸し倒れても差し押さえた住宅で十分担保される。借りていた人には2年たったら今の家を売って新しい家を購入して新たなサブプライムローンを組めば収入が少ない人でもどんどんいい家を持てる。住宅の価格がどんどん上がっている限りは。
投資銀行はこうしたローンの債務を証券化して格付け機関ムーディーズとかS&Pを篭絡してA格付けをつける。うまく化粧されたこの証券は投資銀行から大々的に売り出される。バブルに乗って投資銀行は膨大な利益を積み上げていった。
でもバブルは永遠に続くことはない。何処かで住宅バブルは終わり返済能力のない人に貸したローンは焦げ付く。
しかし、そんなバブルの熱狂の中でも、このサブプライムローンがいかに危険なもので何時かは(たぶん優遇金利の終わる2年後には)破たんするということを正確に予言し、カラ売りを仕掛けていた人たちがいた。
この本はバブルの集団ヒステリーの輪に入ることなく一人正気を保ちながら逆張りした投資家たちの姿を描き出している。

いや~面白かったですね。
リーマンショックとは何だったのか理解するのには必読でしょう。
投資銀行なりヘッジファンドのアナリストとかはサブプライムローンの現場で何が起こっているのかを何も知らず住宅バブルとしか言えないような現状が永遠に続くということを疑うこともなくローン債権を切り刻み合成して化粧直しをして優良債として売りまくる。内容を吟味することなく格付け機関の格付けを信じてみんな買う。儲け話には貪欲なので投資銀行自身も格付けを信じ自己勘定でも買っていた。投資銀行のトップもそして政府関係者も何が起きているかを知ろうともせずにバブルの成果を謳歌していた。現場ではさらに儲けていくために全く返済能力がない人たちにもどんどんローンを組ませていく。破たんへの秒針は刻々と進んでいるのに最後まで止まることがない。わが日本の「みずほ証券」も最後のカモとして名をとどめる栄光(ほとんど価値がなくなりつつあった10億ドルの証券の買い手として)に浴している。
それにしても投資銀行のアナリストも格付け機関の職員も売り出している証券の内容を何も理解していないというのはどういうこと…目論見書は膨大なページになりそれを読み込んでいってもとても理解できない証券を格付けだけを信じて売りまくり、そのセールストークに乗ってホイホイ買うというのは強欲に支配されて何も見えなくなっていたということか。自分が優秀だと思っている人ほど過信し分からないと言えなくて陥穽に陥るのでしょう。
世の中にはありとあらゆる儲け話があり投資信託でも複雑な仕組みで目論見書も膨大でとても読めないようなものが多いのですが、普通に読んで理解できないようなものには近づかないのが正解です。そういう投資信託を売る方もセールストーク以外は内容をほとんど理解できていないことに気が付くべきでしょう。
ところで、この危険な状況を正しく認識できたのは、一握りのアナリストでそれもアスペルガーとか人間嫌いとかの一般社会では仲間はずれされるような人たち。いろいろな指標を分析していくことで現場で何が起こっていて、この状況の持続可能性はなく近い将来破たんすることを、それならば空売りすれば大儲けできることに気が付く。
でも彼らは予想通り賭けに勝ち大儲けしたのだが、こんな詐欺的な証券を売って金融危機をもたらしたアメリカの金融界に深い絶望をしている。
一方売りまくっていた投資銀行は破たんし、後始末に政府は何兆ドルもの資金を投入し、世界同時不況をもたらし、アメリカでは投資銀行という業態がなくなるのだが、売って膨大な報酬を得た人たちは報酬を返すこともなく雲隠れしてしまった。最も被害を受けたのは無理なローンを組んで借金で住宅を追われてしまった人たち、何の落ち度もないのに政府により強制的に義援金を出さざるを得なかった納税者たち。
今のアメリカのトランプ現象、サンダース現象の底流にあるのは、こういったアメリカの強欲な支配層に対する反感があるのでしょう。
海外のドキュメンタリーは人名を覚えるのが大変で何回も戻って確認しなければいけなかったし、金融関係の用語も普段なじみがないだけにチンプンカンプン。でも適当にスルーして読んで行っても十分この本の面白さを堪能できます。
ちなみに最近「マネーショート」という題名で映画化され公開されました。

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