路隘庵日剰

中年や暮れ方近くの後方凡走

頬杖や青くは見えぬ雨の列

2011年06月02日 | Weblog

 入梅ってほんとに雨が降るんだ。曇天、いつでも降りまっせ、みたいな天気。で、時々ほんとに降って、夜には大雨。

 所要で某家を訪ねる。まったく初めての訪問。老女一人暮らしであるらしく、初めて会うその方と話をする。話進むうち、その家が中学時代の同級生のT君の実家であることを知る。つまりT君の母上と話をしていたわけで、彼の消息を尋ねて、4年前に亡くなった旨聞かされる。まったく知らなかった。甚だ衝撃を受ける。
 それほど深い付き合いではなかったが、自宅の方向が同じだったので時々一緒に帰ったことを思い出す。恐ろしく運動神経のいい少年で、殊に器械体操系というか体が信じられないくらい柔軟であった。つまりはワシとは全く対称的で、ワシなぞやろうとも思わない前転(手を使わないやつ)やバク転を平気でひょいひょいこなし、しかも他の人がやるよりも人一人分くらい高いトンボを連続で易々と切るのであった。ついた綽名が「忍者」。このニックネームほどピッタリとその人物を表したものをワシは知らない。
 ある下校時、途中の湖にかかる橋の欄干にT君がヒョイと飛び乗って、そのまま対岸まで渡りきってしまったことがある。悠揚迫らざる、というか普通の道となんら変わらないように、時々片足で立ってみせたり、欄干の上で立ち止まって話しかけてきたり、一歩誤れば湖面に落下するわけだから、高所嫌いかつ運動音痴のワシとしては彼を見上げるだけでマサに生きた心地がしなかった。
 中学卒業以後は全く付き合いもなかったから、その後の彼がどのような人生行路を辿ったのかも知らないが、まだ若い壮年の死は、さぞ無念であったことだろう。遅まきながら冥福を祈る。

 というわけで、寒い雨音。